国内の脱“テクノ教室”、欧米で進む「ブレンディッドラーニング」手法を紹介

 ブレンディッドラーニング(BL)とは、「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準進級」のこと。アクティブラーニングとBLの位置づけや、国内の小中学校における導入手法を紹介する。

教育・受験 先生
ブレンディッドラーニング導入の可能性とは?小中向け導入手法を紹介(画像はイメージ)
  • ブレンディッドラーニング導入の可能性とは?小中向け導入手法を紹介(画像はイメージ)
  • 第2回連載で紹介した「BLほか教育法ポジショニングマップ」
◆BL導入で効果が表れやすいのは「算数・数学」…小中学校への導入法

 私自身の経験やアメリカの事例を参考にすれば、BLの効果が比較的早く表れやすい科目は、小1から高3までひとつひとつ系統的に理解を積み上げていくことが必要な算数・数学です。なかでも、割合や速さなどを学習する小学高学年から、あらゆる数学的知識を総動員しないと解けない方程式を初めて学習する中学1年前後でつまづいている生徒は、理解できていない単元・領域を特定し、理解できるレベルまで遡って個別カリキュラムで集中的に復習すれば直ぐに追いつくことができます。

 そこでまず手始めに、放課後や週末または長期休暇にオンラインコースを利用して無学年・個別カリキュラム方式で算数・数学の後戻り復習をする講座を開設することをお勧めします。その際留意する点は、個々の生徒の弱点・苦手を的確に見極めて実際の学年にこだわることなく適正な内容・レベルから始めることと、無理なくマイペースで達成できる目標と計画を策定することです。

 そして、生徒に学習の主体性を持たせるために、自助努力で頑張れば目標を早く達成できるが逆に怠ければ先へは進めないことをあらかじめ十分に理解させ、学習の進捗については自己責任であることを自覚させることです。集団授業のように静かに座っていれば先生が勝手に進めてくれる、または家庭教師のように先生が横に座って手取り足取り指導してくれる、という他力本願は通じないことを認識させるのです。

◆BL導入に必要な体制や組織、準備など

 BL導入に際しては、対象科目を専門とする先生をリーダーに据えて実行チームを編成します。学年、科目を限定して小規模で試験的に始めるのであれば大きな組織・人員配置の変更は不要ですが、放課後や週末などを利用することを考えると、中学では部活動の顧問は外れてBLの指導に専念されるほうが無難でしょう。また、BLの核となるオンライン学習や個別学習管理ソフト等を利用するために、ネット環境の整備、デジタル機器の調達、使用ソフトの選定など、導入に必要な作業量によってはIT専従者が必要なケースもあるでしょう。

 もっとも重要な点は、BLに対する現場トップ(校長)の理解と支持です。従来の常識を打破して新しいことを実行しようとすると必ず反対の声が上がります。トップが確固たる信念をもってBLの導入を組織全体に徹底して浸透させることが重要です。そして、BL担当の教員はトップに対する経過報告を怠らないだけでなく、他の教員や保護者に対しても積極的に情報を公開し、反対派・懐疑派の理解を得られるよう努力することがBL導入プロジェクトを成功へと導く鍵です。

 BLにおける先生の役割は、教壇から一方的に講義をし板書をすることが中心の集団授業とは大きく異なります。最初の作業は、生徒ひとりひとりの学力を客観的に評価すること、生徒とともに目標を話し合い達成基準を明確化すること、目標に至る道筋(ロードマップ)を明示して計画作成を支援すること、そして適正なレベルの教材を助言することです。

 実際の指導では、単に正解を教えれば済むのではなく、生徒が自ら答えを見つけられるようサポーター役に徹することが生徒の主体性を育みます。そして、ひとりひとり異なる学力や集中力、性格を念頭に生徒がマイペースで進むことを辛抱強く見守り、決して急かさないことが重要です。車の運転をするのは先生ではなく、あくまで生徒が自らの考えで運転することを忘れないでください。

◆BLは授業のいち手段、校風に合うよう試行錯誤を繰り返す

 導入を考える学校・先生が間違えてはいけない点は、BLは手段であって目的ではないことです。最終的な目的は、「個別カリキュラム」と「達成度基準進級」の実践により生徒ひとりひとりに見合った学力の向上を図ることです。BLの導入後は、BL参加生徒と不参加生徒の学力比較、参加生徒の参加前後の伸び、BLに参加する時間の変化などのデータを定期的に収集して分析することが必要です。分析の結果や参加生徒の声を参考にして何らかの調整が必要であれば直ちに軌道修正を図り、試行錯誤を繰り返しながら各校の校風に合致する形に仕上げていくのが理想です。

 実際にBLを導入する際の手順は、予め定めた時期に、予め決めた基準に照らしてBLプロジェクトの成否を判断することから始めると良いでしょう。そして、対象科目をBL算数・数学から主要科目へ拡げるか、学年を小学高学年から小中高全学年にするか、さらに実施時期を放課後、週末、長期休暇から通常授業時間帯へと拡げるのかなど、段階を踏んで決定していくことをお勧めします。

 次回は、BLの実践に欠かせないテクノロジー、特にオンライン学習MOOCについてご案内します。
《小松健司》

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