米国で始まる採用革命、MOOCが変えるこれからのキャリアパス

 前回(2015年11月10日)は世界で急速に普及しているMOOCについてご案内しました。本回、最終回では、MOOCが変えるこれからのキャリアパスについてお話します。

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米国で始まる採用革命、MOOCが変えるこれからのキャリアパス(画像はイメージ)
  • 米国で始まる採用革命、MOOCが変えるこれからのキャリアパス(画像はイメージ)
  • 21世紀社会に必要な個性と自立心を育む個別指導塾「ipal アイパル」塾長 小松健司
◆MOOCによるキャリア革命…米国IT・通信企業への優先採用も

 MOOCの本格的普及は学校を卒業した後のキャリアにも大きく影響するようになります。アメリカでは企業側がMOOCを積極的に活用する事例が出始めています。たとえば、Udacity(ユダシティ)では大手通信会社AT&Tがスポンサーになって「ナノディグリー」と呼ばれる半年から1年の短期コースを開設し、成績優秀者には同社のインターンポストを優先的に提供するプログラムを始めました。

 また、Coursera(コーセラ)は優秀な受講者をIT企業などに斡旋するサービスを始めています。 リクルートがUdacityに出資したのも、日本で同じようなジョブマッチングビジネスを始める布石かもしれません。ビジネスSNSのLinkedIn(リンクドイン)がオンライン学習サービスを買収した背景にも同じような理由があると考えられます。また、MOOCで特定の講座を修了することが入社の条件となるだけでなく、米Yahooが社内研修にCourseraを利用しているように、近い将来、入社後の研修や昇進までもMOOCの履修が前提となる可能性もあるでしょう。

 アメリカでは、高校卒業後そのまま大学へ進学しても4年で卒業するのは4割に過ぎず、伝統的なキャリアパスが崩れつつあります。たとえば、高校時代のレストランでのアルバイトを卒業後もフルタイムで2年間続けて接客の基礎を身に付けた後、地元の建築事務所でインターンをしながらMOOCでハウスメーカーがスポンサーの建築デザインのコースで勉強を開始。正式入社が決まり実務経験を積みながらMOOCでも勉強を続けて必要な資格を取得。その後、MOOCのオフ会に参加して人的関係を築き、MOOCの優秀な成績が認められて個人客対象の大手設計事務所へ戸建て住宅の建築デザイナーとして転職する…。こうした伝統的なキャリアパスとは異なる生き方が増えていくのは間違いありません。そうなると、経歴書の学歴の記載方法も「○○大学 ○○学部卒業」から「○○MOOC ○○コース修了」の列挙に変わるはずです。

 翻って、日本ではいまだに新卒採用の選考解禁日をいつにする、などという世界の潮流とはかけ離れた議論がなされています。重要なのはそんなさまつなことではなく、採用側の企業が、大学の卒業証書という形式ではなく、修了した講座の内容と成績という実体を見て判断するよう、採用に対する考え方を抜本的に改めることです。形式的通学歴から実質的修学歴への移行です。

 企業側が職種によって不可欠なスキルを獲得するために必要となる講座を体系的に指定し、それに沿ったMOOCを受講・修了することを入社条件とするのも良いでしょう。さらに、自分の興味関心に沿った講座を自ら選んで受講した生徒が、その延長線上で就職先を選定できるようになれば、入学から4年後の4月に新卒一括採用という日本独自の不思議な制度も自然と消滅し、人材の適正な流動化も進むでしょう。

 本連載では、これまで6回にわたりブレンディッドラーニングの概要と導入方法、具体的な事例、そしてブレンディッドラーニングの中心的手段であるオンライン学習MOOCが変える大学と就職の将来像についてお話しました。
《小松健司》

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