知識技能の可視化と効果測定が鍵…私学の事例から考える「グローバル教育とDX」

 サインウェーブは2021年7月10日、オンラインセミナー「専門家と私学6校の先端教育から考える“グローバル教育とDX”」を開いた。サインウェーブ顧問で、東京外国語大学の投野由紀夫教授によるグローバル教育とDXに関する講演、私学6校の校長らによる実践発表を振り返る。

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英語を使った理科の授業のようす
  • 英語を使った理科の授業のようす
  • グローバル教育の4本の柱
  • DXと外国語教育(KDDI Webサイト一部引用)
  • グローバル化と求められる英語力
  • 大妻中学高等学校の模擬国連の取組み
  • 帝塚山中学校 高等学校の現地校との交流
  • 桐朋中学校・桐朋高等学校生徒とライデン大学生とのオンライン交流
  • 花園中学校・高等学校での「zSpace」を利用した学習体験
 サインウェーブは2021年7月10日、オンラインセミナー「専門家と私学6校の先端教育から考える“グローバル教育とDX”」を開催した。東京外国語大学・教授であり、サインウェーブの顧問を務める投野由紀夫氏によるグローバル教育とDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する基調講演、私学6校の校長らによる実践発表を振り返る。

 セミナーでは、最初に東京外国語大学・教授の投野由紀夫氏が「グローバルキャリアに向けてのコミュニケーション力育成と評価」をテーマに講演した。投野教授はグローバル教育の4本の柱として「INVESTIGATE THE WORLD(世界を知る)」「RECOGNIZE PERSPECTIVES(理解しあう)」「COMMUNICATE IDEAS(アイデアを伝えあう)」「TAKE ACTION(行動を起こす)」をあげ、「この4本の柱はどの年齢のどのレベルでも導入できる教育目標」と説明。成長段階に応じていろいろな教科と紐付いていると話した。

グローバル教育の4本の柱
グローバル教育の4本の柱

 加えて、グローバル化にともなって起きている「言語としての英語の変化」についても解説。2000年代初頭、外国語として英語を使う人が圧倒的な勢いで増えたことで、英語の基準は欧米への憧れではなく「英語を使えるようになると世界とつながりグローバルな社会の一員になれる」というモチベーションに変わってきているという、国際的な動機付けの研究分析を紹介した。

外国語教育に押し寄せるDX



 グローバル化の波とともに外国語教育に押し寄せているDX(デジタル・トランスフォーメーション)については、DXの基盤となるプラットフォームとして「クラウド」「ビッグデータ」「ソーシャル技術」「モビリティ」、DXを加速させる新しい技術として「セキュリティ技術」「xR」「IoT」「AI」「5G」をあげた。これらの技術を外国語教育に適用してDXが推進される分野としては「自動翻訳・通訳機」「セキュリティ万全のオンライン英語入試」「xRによるバーチャル英会話・バーチャル留学体験」「教材・教具のIoT化」「AI学習」「ロボット教師」「オンライン授業」等が考えられるとした。

DXと外国語教育(KDDI Webサイト一部引用)
DXと外国語教育

 そのうえで、投野氏は「実現すれば素晴らしい夢のような技術。外国語教育に適用するときには基本的に押さえておきたいポイントがある」と指摘。1つ目に予備校や塾による講義型・説明型コンテンツのオンデマンド化、2つ目にインプットとアウトプットを大量にこなせる環境をDXで作るアプローチ、3つ目に4技能で使えるためのスキルトレーニングをあげた。

 また、「機械翻訳の精度が上がってくると、外国語教育はいらないという人が必ず出てくると思う」と語り、国語教育・英語教育・外国語教育に携わる人たちが「言葉の教育はどうあるべきかということに対する根本的な問い」に対して回答できるようなしっかりとしたロジックが必要だと指摘。「機械翻訳は大変便利で利用していく価値が大いにあると思うが、発達段階のプロセスで言葉の教育をいい加減にしてしまうと、将来(機械翻訳を)使う側の人間の資質や能力が著しく欠けてしまう可能性がある」との懸念を述べ、DXの価値を議論していくべきとの考えを示した。

外国語能力の可視化が必要 ~「CEFR」を例に



 続いて投野氏は、DXの活用について透明性の高い議論をするためには、外国語能力に必要な知識技能とそれによってできることを可視化できる枠組みがあると便利だと話した。その一例として、自身が10年以上にわたって研究を続けているヨーロッパ言語共通参照枠「CEFR(セファール)」、日本での英語教育の枠組みとして作った「CEFR-J(セファールジェイ)」を紹介した。

グローバル化と求められる英語力
グローバル化と求められる英語力 ~CEFR、CEFR-Jを例に~

 学校での語学教育については、「『CEFR』のような、しっかりとしたレベル設定とその内容をきちっと見取りながら、かつそれを海外研修等のさまざまな使う機会、体験的なものと一緒にあわせて醸成していく必要がある」と説明。DXでうまくいったところ、DXしなかったらうまくいったところ等、効果検証していくことの重要性を強調した。

 続いて、全国の私学6校から校長、副校長、英語教育責任者・部門責任者の先生5人が登壇。グローバル教育や英語教育の実践、DXの展望等について語った。各校の講演のおもな内容を紹介する。

模擬国連でグローバル教育を活性化



大妻中学高等学校 校長 成島由美氏


 東京都千代田区にある中高一貫の女子校。グローバルビジョンを掲げながら教育改革に取り組んでいる。中高模擬国連の中心校であり、30校400名以上が参加する全国最大規模の模擬国連も主催。2020年の新型コロナウイルス感染症拡大時にはオンラインで会議を実施。2019年と2020年には、全日本高校模擬国連大会で2年連続優秀賞を獲得している。

大妻中学高等学校の模擬国連の取組み
大妻中学高等学校の模擬国連の取組み

 グローバルな舞台で通用する英語力を身に付けるために英語教育改革を実施している。英語4技能対策アプリ「ELST」を導入し、AIによる自動添削等を活用。2021年度より、中学1年生全員を対象にグローバル教養の導入として、英語での探究学習「グローバルスタディーズ」の授業を新設した。海外研修を見直し、産学連携で早い段階から「学ぶ」と「働く」をつなげる新しいプログラムとして、アメリカ・シアトルでの2週間弱の研修を企画・実施している。入試改革により高い英語力をもった帰国生も積極的に受け入れ、特別な英語プログラムを提供。教員全体の英語レベルの底上げのため、日本を代表するクラスの英語教員を採用している。

ネイティブ教員の授業や添削で英語力を磨く



帝塚山中学校 高等学校 英語科主任 中林豊氏


 奈良県奈良市にある中高一貫校。男子校と女子校が同じ敷地内にある男女併学。ネイティブ教員3名による中学3年生の週3単位の「英語II」は、ライティングにフォーカスした授業で、ユニットごとに100ワードぐらいのエッセイを毎回書いて提出する。ネイティブ教員が英語で話しながら英文を添削するようすを動画に撮り、生徒に返却をする「オンライン添削」を実施しており、添削のプロセスがすべて見えるのでわかりやすいと評価されている。ネイティブ教員が生徒の頻出ミスを分析し、間違えやすい問題を認識するとともに繰り返し訓練する、定期試験のセクション「Types of mistakes」もある。

帝塚山中学校 高等学校の現地校との交流
帝塚山中学校 高等学校の現地校との交流

 中学3年生の行事「サイエンスキャンプ」は、男子のスーパー理系コースの特色プログラムとしてスタートし、当初はオーストラリア・アデレードで行い、2018年からハワイに変更して現在にいたっている。火山の噴火口や溶岩等、サイエンス要素やハワイならではの特色を盛り込み、現地校との交流、STEMイベントへの参加といった、さまざまな体験を用意している。

卒業生とのつながりから生まれる国際交流



桐朋中学校・桐朋高等学校 高校部部長 小野島正道氏


 東京都国立市にある中高一貫の男子校。中学3年生の英語演習の授業では、習った文法の復習と並行して分量のあるエッセイを年間5本以上書いている。近年は、書いたエッセイをもとにしたスピーチコンテストを行っている。高校2年生の英語表現の授業は、中3英語演習の活動をさらにバージョンアップしたもの。書いたエッセイをもとにスピーキングテスト等も行い、オンラインでの作文添削サービスを試行的に実施している。中学2年生と高校1年生の英会話は、各クラスを2分割して授業を行っている。語学指導等を行う外国青年招致事業「JETプログラム」で招き入れたネイティブスタッフも授業内外で活躍している。

桐朋中学校・桐朋高等学校生徒とライデン大学生とのオンライン交流
桐朋中学校・桐朋高等学校生徒とライデン大学生とのオンライン交流

 海外研修や語学研修は、英語科が企画するケンブリッジ大学語学研修、国際交流委員会が学校間交流として行うイギリスの名門パブリックスクールでの夏期コースがある。その他、卒業生からの提案・協力で、オランダ・ライデン大学の日本語学科学生と英語・日本語を使いながらオンラインミーティングを行う等の国際的な取組みも実現。最近では、海外大学への進学を検討し、実際の進学実績も出てきている。

入学直後からシャワーのように英語を浴びせる



花園中学校・高等学校 副校長 中村広記氏


 臨済宗妙心寺(京都府京都市)が創設した男女共学の中高一貫校。2016年4月に立ち上げた「スーパーグローバルZENコース」では、禅の心を有する真のグローバル人材を育成し、海外大学進学を目指した教育を展開している。中学1年生は1週間で英語3時間に加え、英会話を5時間履修。「イマージョン数学」「イマージョン理科」として、外国人講師が英語で数学や理科を教える授業もある。中学1年生から、英語をシャワーのように浴びせることにこだわっている。

花園中学校・高等学校での「zSpace」を利用した学習体験
花園中学校・高等学校での「zSpace」を利用した学習体験

 オンライン英会話は、産経オンライン英会話と提携し、学校でも自宅でも行えるマンツーマンのプログラムを利用している。また、高校2年生までに卒業に必要な単位を取得し、高校3年生はNICインターナショナルカレッジと提携した海外大学正規留学のためのプログラム「NIC講座」を1日4時間受講する。さらに日本の教育機関としては初めて、VRとARの要素を統合した一体型コンピュータ「zSpace」を導入。英語のコンテンツも活用しながら、新しい学習体験にも取り組んでいる。

世界に通用する18歳を育てる海外研修



立命館慶祥中学校・高等学校 主幹/田中学園立命館慶祥小学校 学校長 吉田恒氏


 立命館慶祥中学校・高等学校は、北海道江別市にある学校法人立命館の附属校で、男女共学の中高一貫校。1996年の開校から「世界に通用する18歳」を教育スローガンとし、その象徴的行事として高校2年生全員で行く海外研修を複数コースで展開し続けている。現在設けているのは、進化論を学ぶガラパゴスコース、最先端の宇宙科学技術を学ぶアメリカのNASAコース、アウシュビッツを訪れ戦争と向き合うリトアニア・ポーランドコース、2017年からはアフリカ大陸のボツワナコースが加わり、9コースとなった。海外研修を学年行事としての実施形態をさらに個別最適化し、これまで以上に日本の海外研修の先を行く「次世代型の海外研修」へと高度化することを学内決定。中学3年生~高校3年生に学年を超えて、共通の課題解決意識のもと、複数回参加が可能な制度として大きく展開する予定。2025年までに30~40コースへの増設を目指している。

立命館慶祥中学校・高等学校の海外研修
立命館慶祥中学校・高等学校の海外研修

 田中学園立命館慶祥小学校は2022年4月に札幌市内に開校し、吉田氏が初代学校長を務める。校舎の横には豊かな森があり、高い学力をつけていく学校になるが、豊かな心と体も育成していく。ここの学校は「月曜日がワクワク待ち遠しくなる校舎」を作っている。札幌でも期待が高まっているイマージョン教育、高度なICT教育も行っていく。5~6年生には海外プログラムをオプションで用意する予定。まずは導入として5年生には体験型プログラムに参加してもらい、6年生で現地校に入る形で交流型プログラムに行きたい。さらに世界のトップスクールに行くような1~2か月の短期留学をする生徒も育てていきたい。

田中学園立命館慶祥小学校の海外プログラム
田中学園立命館慶祥小学校の海外プログラム


 講演後には、主催のサインウェーブより、検定機関とのAI自動採点共同研究や中学校検定教科書5社との共同プロジェクトにより開発に至った、英語4技能アプリ「ELST」「ELST Elementary」の活用事例が紹介された。ヨーロッパ言語共通参照枠「CEFR」にのっとった学習コースや、英作文の自動添削など、全国の学習塾や私立中高のDXをサポートする機能を多く備えている。

 最後に、進行役を務めた森上教育研究所アソシエイトの高橋真実氏から、これからの英語教育等について各登壇者に質問が投げかけられ、議論を深めた。日本国内におけるグローバル教育が、DXにより新たな局面に入ったことを実感する2時間半のセミナーだった。サインウェーブでは、9月にも「小学校の英語教育とICT活用」の開催を予定している。
《奥山直美》

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