【中学受験2024】関西は共学校の人気、附属校の隔年現象で難化か…浜学園

 浜学園の学園長・松本茂氏に、コロナ禍以降の関西の中学受験動向や、2024年度入試について聞いた。

教育・受験 小学生
画像はイメージです
  • 画像はイメージです
  • 浜学園 学園長の松本茂先生
  • 画像はイメージ
  • 画像はイメージです

 1月半ばに中学受験の統一入試日を迎える関西。コロナ禍における関西の中学受験の状況はどうだったのだろうか。また、さまざまな制限が緩和された今年度、関西の中学受験を取り巻く環境はどのようになっているのだろうか。

 灘中をはじめとする関西の難関校に高い合格実績をもつ大手進学塾・浜学園。2022年4月より学園長を務める松本茂氏に、コロナ禍以降の関西の中学受験について話を聞いた。

2023年春は強気の受験にシフト

--中学入試の概要について。コロナ禍以降の関西における現況をどのように見ているかお聞かせください。

 まずはコロナ禍中の中学入試について振り返ります。2020年のコロナ一斉休校時、当時の6年生は塾が休講となったり模試の実施回が減ったりと大きな影響を受けました。それまで基礎学力を積み上げてきたにもかかわらず、志望校に向けた対策が十分にできなかったことで慎重な受験とならざるを得なかったケースも多く、難関進学校が少し人気を落としていました。また感染への不安などから、広い地域から生徒を集めるような学校についても回避する傾向が見られました。ちょうどそのころ、2025年の大学入試改革を見据えて内部進学ができる大学附属校の人気が急上昇。本来は難関進学校を目指していた層が、同志社香里や関西学院といった上位の大学附属校を目指すという流れが2021年、2022年に顕著となりました。

 そして2023年。今年の春に受験した子たちは、長引くコロナ禍の影響下で受験勉強を続けてきました。学校は感染症に対して依然慎重でしたが、進学塾ではいろいろなことを元に戻す方向に舵を切り始めていた時期で、学校行事が少ないぶん、意外と受験勉強に時間を割くことができていたのがこの年の受験生と言えます。その流れを受け、ここ2年間で志望者を減らしていた難関進学校に強気で挑戦する子たちが戻りました。同時に、2年続いた大学附属校の高倍率を敬遠し志望校のランクを落とした受験生が多くなった結果、逆に上位の大学附属校は入りやすくなったのも特徴的でした。

浜学園 学園長の松本茂氏

--それら直近の動向を受けて、2024年はどのようになるとお考えになっていますか。

 2024年についてはコロナ前と同じ、あるいは今年の春に近い入試になるのではないでしょうか。いわゆる難関進学校の人気についても維持されると思います。

 関西での最難関校、全国から受験者を集める灘中についても、2022年までは東京・神奈川からの受験者数が減っていましたが、2023年は復調傾向にありました。関西圏の中学入試は、毎年1月中旬の土曜日の統一入試日にスタートします。今年の統一入試日は1月13日。万が一コロナにかかったとしても、東京・神奈川の解禁日である2月1日の入試までに間に合います。

 大幅な動きがあるとすれば、いわゆる隔年現象が関西で起こるかどうか。2023年入試で同志社香里や関西学院が少し緩めに振れたことで、今年度は難化へと揺り戻しがあるかもしれません。

「共学人気」がキーワードに

--新たに設定された試験回や試験科目の変更、新設やコース改編など、今年度注目のトピックスについて教えてください。

 これまで男子校だった滝川学園の共学化があげられます。大阪からは若干遠いので地域は限定されるかもしれませんが、兵庫県の受験生にとっては併願パターンに影響が出てくることが予想されます。京都では洛星中学校が前期・後期ともに募集定員を減らし25人減(1クラスに付き5人減)となりました。また、東大寺学園では国語の入試時間が50分から60分に延長となります。より時間をかけて長文を読み解き、表現する力を問うというのは、やはり今の時代の流れに沿った変更ともいえるでしょう。

--人気校の動向についてお聞かせください。

 2017年に男子校から共学化し、大阪と京都どちらからも通いやすい立地にある高槻中が近年、人気を集めています。大阪医科薬科大学の系列校なので、医学部志向の女子に注目されているのはもちろん、前期と後期それぞれに入試回を設けていることもあり、最難関を目指す男子からも人気を博しています。

 関東でも一時期、共学人気が話題となりましたが、関西では今まさに数年前の関東と同様のことが女子に起きています。共学校の勢いが非常に強く、奈良の西大和学園、京都の洛南、大阪の高槻や、兵庫の須磨学園とその系列の夙川中学校、雲雀丘学園の人気が高まっており、偏差値も右肩上がりとなっています。

 ただし関東では女子教育の良さが再び注目されるようになり、最近は別学校に人気が戻ってきているように思います。関西における共学志向の高まりも今がピークとなり同じような流れをとるのか、もうひと伸びするのか。一方で、人気が出るということは必然的に難度が上がるため、敬遠する層も出てくるのではという見方もでき、今後の動向を注視しています。

--共学校に人気が集まる背景には何があると考えられますか。

 たとえば、近年人気が急増した須磨学園はもともとICT教育に力を入れており、コロナ休校時のリモート授業にかなり早い段階で対応したというのも大きかったと思います。進学実績も好調で学校全体のレベルが上がり、また、2019年に夙川中学校を系列化したことも追い風となっています。

 雲雀丘学園は兵庫と大阪の県境の、北摂といわれるエリアにあります。通勤・通学も便利で住環境も良く、流入人口も多いという地域性に加え、近年は進学にもかなり力を入れるようになったことで人気に拍車がかかっていると見ています。

思考力を問う入試傾向が色濃く

--出題の傾向についてお聞かせください。大学入試改革をふまえ、思考力を問われる問題と知識を問われる問題のバランスに変化はあったのでしょうか。

 センター試験に代わり大学入学共通テストが導入されて3年が経ちました。さらに、大学入試自体も総合型選抜の比率が上がっています。これまでは、関西は比較的知識を問うものが多い傾向にありましたが、今後は、関東の難関校の中学入試に顕著な、グラフや表を用いて初見の問題を解かせるといった思考力型の入試に少しずつ近づいていくかと思います。学校の先生の意識も変わってきているので、時代が求めるものに沿う形で、そうした形式の出題が増えていくのは間違いないでしょう。

--近年、関西では英語入試の導入校が増加していると聞いています。

 関西についても英語入試を実施する学校も出てきていますが、上位~難関校については、やはり従来どおりの4科入試が基本です。一方で、国際クラスなどを設けており、もともと英語入試を行っていたような学校に関しては、よりレベルの高い英語が求められるようになっていくと思います。

--関西の受験者1人あたりの出願校数について教えてください。

 先にも触れましたが、関西は関東のように県ごとに解禁日が設定されておらず、同一日に一斉に入試がスタートします。その代わり、四国や北海道、東海、北陸地方といった地方の学校が大阪入試会場を設定しているので、12月の半ばに実施される岡山中学校からスタートし、愛知県の海陽学園を受けるなど、他地域の入試を1校または2校受けてから本命に挑むケースが多いです。

 灘中のように入試が2日間にわたる入試もあるので若干違いは出ますが、2024年度は1月13日に迎える統一入試日以降は、午前午後を含めて3校から4校。他地域入試の1~2校と合わせて4~5校というのが大体の目安です。

すべては「普段どおり」にできるかどうか

--早いケースでは12月の半ばから入試がスタートすると伺いました。入試本番に向けて、子供たちをサポートする保護者に必要な心構えを教えてください。

 入試は、奇跡を起こしに行くものではありません。「普段どおり」にやれたから、試験に通るわけです。

 「前受け校」というのは、本番の緊張感に慣れて普段どおりの力を出すために受ける子が大半だと思います。確かにうまくいくことで勢いがつく子もいますが、合格で満足してしまい、本番までに気が抜けてしまうタイプの子もいます。そうなってしまっては、普段どおりの力を出せません。そこはご家庭でお子さんの性格を考慮しながら、ようすを見てください。

 前受けでは失敗しても良い。ただ関西では、前受けした学校へは現実的にはほぼ通えません。普段どおりに挑むための練習で動揺したりメンタルに影響を及ぼしたりしたくないのであれば、親は子供との間で「結果は見ない」と約束しておくことも一案です。

 親が前受け校の結果を見る場合には、子供の性格上、安心するタイプだったら合格を伝えれば良いですし、悪い結果だったら「見ていない」と返せば良いのです。そうすることで合否結果で子供に影響を及ぼさなくて済みます。お父さんお母さんは演技力が必要になりますが、落ち込んだ顔を見せないことが肝要です。やはりここでも、「普段どおり」という姿勢を意識していただきたいと思います。

 また、入試期間に入ってからのおよそ1週間、親はどう動くかを事前にきっちりと決めておくことで「普段どおり」を装いやすくなります。さまざまなケースを想定し、シミュレーションしておきましょう。そして、第1志望はある程度チャレンジするとしても、どこか1つは、よほどのブレ方をしない限り大丈夫だろうと思え、かつ通わせても良いと思える学校を決めておくこと。それだけでずいぶん安心感が違ってくると思います。どうしても第1志望にばかり注目してしまいがちになりますが、後ろの日程のことまでシミュレーションしておき、あとは脇目もふらずに走り抜くことをお勧めします。

これまでやってきたことが合格への一番の近道

--ラストスパートをかける受験生にメッセージをお願いいたします。

 お子さんは、自分のことを知らない、見たこともない第三者に判断されるという経験を、入試で初めてするわけですが、そんな大一番を経験する子供たちに伝えたいのは「これまでやってきたことを信じる」こと。これだけです。努力すればするほど、自分に足りないものが見え、頑張れば頑張るほど不安になってしまい、新しいことに手を出したくなったり、隣の子がやっていることが良さそうに見えたりする気持ちもわかります。でも、自分がやってきたこと以外が入試に出ることの方が確率はずっと低い。入試が近づけば近づくほど、今までやってきたものをやり抜くことが重要なのです。

 そして何より、今から本番までのラストスパートこそ、これまでの何倍も伸びる時期です。最後まで決してあきらめず、今までやってきたことを信じて頑張ってください。

--最後に、親御さんに向けてメッセージをお願いします。

 私自身、長きにわたってさまざまな親子の中学受験に寄り添ってきました。そのなかには第一志望への進学がままならなかったケースもあります。

 保護者が満足しないままだと、それが子供に伝わってしまいます。お子さんがどの学校に入学したとしても、保護者の方は心から祝ってほしい。「この学校で6年間頑張ろう」という気持ちに子供を向かわせてほしいし、学校を信じて通わせてほしいのです。

 中高6年間という多感な時期を過ごすわけですから、どこの学校に行っても嫌なことやスランプは必ずあるでしょう。そのときにも、「この学校を信じて子供を通わせている」という思いがあれば、学校と二人三脚で子供を見守り、励ますことができるはずです。

 わが子を成長させてくれる学校との縁は、どこにあるかはわかりません。わが子が良いご縁のある学校に導かれると信じ、ラストスパートを走り切るお子さんの1番の応援者でいてあげてください。

--ありがとうございました。


 「入試が近づくと奇跡を願ってしまう気持ちもわかりますが、大切なのは普段どおりにやること」と重ねておっしゃった松本先生。信じるのは奇跡ではなく、合格に向けてこれまで頑張ってやってきた自分自身だということを、たくさんの受験生と親御さんに伝えたい。

※[お詫びと訂正]初出時、洛星中学校で1クラス減としておりましたが、正しくは25人減の誤りでした。訂正してお詫び申し上げます。

《吉野清美》

吉野清美

出版社、編集プロダクション勤務を経て、子育てとの両立を目指しフリーに。リセマムほかペット雑誌、不動産会報誌など幅広いジャンルで執筆中。受験や育児を通じて得る経験を記事に還元している。

+ 続きを読む

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top