東大生100人に聞いた「親は子供の進路にどこまで口出しするのか」

 中高生指導の東大生集団 カルペ・ディエム代表 西岡壱誠氏が上梓した『自分から勉強する子の家庭の習慣』(すばる舎)から、子供の進路選択について東大生の親がどこまで口出ししていたのかについて紹介する。

教育・受験 高校生
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 東大に合格するような子供が育つ家庭では、親がさまざまに工夫している場合が多い。勉強だけではなく、生活やコミュニケーションの面において、他の家庭とは少し異なる距離感や働きかけが見られる。

 筆者(中高生指導の東大生集団 カルペ・ディエム代表 西岡壱誠)は『自分から勉強する子の家庭の習慣』(すばる舎)を上梓した。これは、東大生100人へのアンケート結果をもとに、東大生の親が子供とどのように接していたのかについて概観するものだ。

 今回は、子供の進路選択について、東大生の親がどこまで口出ししていたのかについて共有したい。

意見を言う代わりに〇〇をする

 多くの保護者が「親として子供の進路にどこまで口出しして良いのかわからない」と言う。子供が自分で考えるのが理想だが、親の目には「わが子は自分の将来を真剣に考えていないのではないか」と映ってしまうこともあり、どう接すれば良いのかわからないことが多いようだ。

 また、子供が将来について自分なりに考えているとしても、おぼろげで、いわば解像度が低いといったケースが少なくない。たとえば、「美容師になりたい!」といっても美容師の平均年収がどのくらいなのか、どのような働き方をしているのか、どの程度大変な仕事なのかといったことを理解していないほうが多いことだろう。しかし、そこですぐさま親が「美容師はハードな仕事だからやめたほうが良いんじゃない?」などと足を引っ張るような発言をするのでは、せっかく芽生えた子供の主体性を真っ向から否定することになってしまう

 では、東大生の親はどういう対応をするのか。多くの場合、まずは「良い考えだね」と肯定し、受け入れるようだ。そして、「なんでその仕事に就きたいのかな?」「どうすればその進路に進めると思う?」というように、質問を繰り返していくのである。意見を言うのではなく、ただ質問をしていく。「こうしたほうが良い」「これはやっちゃダメ」という親の意見を伝えると、子供にしてみれば上から目線で将来を決められているように感じてしまう。だが質問であれば、子供が自分で考えるきっかけになる。「あ、この質問に答えられないということは、分析が足りなかったのだな」「そういえば聞かれて初めて気付いたけれど、この仕事の年収ってどれくらいなのかな」「あんなふうにいつも流行の髪型を上手に作れるなんて、一体いつ練習しているのだろう」などと、子供なりに解像度を上げていけるのだ。

口出し以外に親ができること

 また、東大生が受験生の際に親がしてくれて嬉しかったこととしてもっとも多くあげられたのが、「自分の意見を尊重し、そのために一緒に情報を集めてくれた」ことだった。なぜその進路を選ぶのかについて子供の意見に耳を傾けつつ、希望する大学の学部・学科のカリキュラムや入試科目などを調べて、自分だけではもちえなかった新たな視点から、客観的に受験を見つめるための判断材料を親が提示してくれたというのだ。

 具体的な声は以下のとおりである。

 「一緒に食事をとりながら、親は私の思いをよく聞いてくれたし、自分の気持ちも伝えてくれたので、よく対話をした。また、情報に乏しい地方の現状を鑑みて、受験勉強に忙しい私に代わって積極的に情報収集に動いてくれた」

 「高校を選ぶときにはかなり話し合った。幼い自分の狭い視野を補強するような意見をたくさん出してくれた。ただし、意見を押しつけられたようなことはなく、『こういう選択肢もあるみたいだよ』とさまざまな情報をそっと差し出してくれた」

反対したいときにはどうする?

 このように、子供の選択を尊重してくれる場合が多いのだが、子供の意見を受け入れるばかりではなく、反対のときには親としての思いをきちんと伝えているようだ。

 「自衛官になりたいと思っていた時期があり、防衛大学校を受験したが、親は頭ごなしに反対するのではなく、『なぜ反対なのか』という理由を明確に教えてくれた。それが1つの判断材料になった」

 重要なのは、「ダメなものはダメだ」「大人の言うことを聞きなさい」などと言うのではなく、理由を明確にすることだ。さもなければ、子供は「親の言う通りに生きなければいけないのではないか」「自分の人生を自分自身が思い描いてはいけないのだろうか」と考えるようになり、「どうせ何を言っても無駄だ」という無力感に苛まれてしまうことだろう。ここで、なぜ反対なのかを具体的に伝えれば、親子で話し合って妥協点を見出すことができるかもしれないのだ。

 上述した自衛官のケースでは、反対の理由は「自衛官になると危険にさらされることが多いのではないか。親としては心配で居ても立ってもいられない」という感情的なものだったそうだ。しかしそれを聞いた子供は「心配でたまらないという親の気持ちは、意見として尊重しなければ」と、むしろ将来について再考したという。つまり、理由さえ明確であれば、子供が自分の将来を深く考えるきっかけにさえなるのだ。

子供の進路選び いちばん大事なこととは

 最後に、東大生の親に聞いた子供の進路選びで「なるほど」と唸らされたのは、「子供にしっかりと悩ませる」ということだった。たとえば、「人を救いたいから医者になりたい」という子供に対して、「人を救う仕事はほかにもいっぱいあるんじゃないかな。人を笑顔にさせて人の“心”を救うという道もあれば、環境を整えて人の“生活”を救うという道もある。その中でどうして『医者』が良いの?」と質問をする。それに対し、子供なりに答えを出すために、「確かに、なんで『医者』なんだろう?」と考えることは、将来についてじっくりと思い悩む時間を増やすことにつながる。

 悩まずに結論を出すと、その道を選んでしまってから「こんなはずではなかった」と行き詰まってしまうことがある。「医者になるのは結構辛いな。自分に向いている道はほかにもあるのではないか」といった迷いが出てくるかもしれない。

 子供自身の意志とは関係のない親の敷いたレールを歩ませたり、子供が軽い気もちで決めた道に進み出したりする前に、まず親は、子供が自らの進路について深く考える時間を増やせるように導くことが大切なのではないだろうか。





《西岡壱誠(カルペ・ディエム)》

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