【NEE2014】学びのイノベーション総括と、佐賀県・荒川区の成果と課題

 「学びのイノベーション実現に向けた文部科学省・自治体の施策」と題されたリレーセッションでは、昨年に終了した「学びのイノベーション事業」の総括と今後の取組みが発表。さらに、佐賀県と荒川区のタブレット導入事例が紹介された。

教育ICT 学校・塾・予備校
文科省 生涯学習政策局 情報教育課 課長 豊嶋基暢氏
  • 文科省 生涯学習政策局 情報教育課 課長 豊嶋基暢氏
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◆荒川区「習うより慣れろを実践」

 続いて荒川区の取組みだ。荒川区は、昨年9月にモデル校4校での1,200台のタブレット導入を開始し、今年の平成26年度には区内の全小中学校へのタブレット導入に向けて活動中である。その取組みは早くから行われ、平成17年には荒川教育ネットワーク(Aen)を整備し、教育委員会と学校をオンラインで結んだ。平成22年度は小中学校普通教室すべてに電子黒板を導入し、平成24年度にはデジタル教科書のネットワーク配信を実現させた。

 これらは、フューチャースクール事業に沿った内容といえるが、担当した駒崎氏が葛飾区のフューチャースクール事業に携わっており、異動先の荒川区でそれを移植する形で進められているからだ。といっても独自の取組みを行っている。タブレット導入では、その可搬性を生かし普通教室に縛られない活用を進めている。また、習うより慣れろを実践するため、導入にはあえてマニュアルレスを貫いた。その分ICT支援員を常駐させる(2年目以降は巡回)などサポート体制を充実させた。

 モデル校の成果は、学習意欲、問題解決力、表現能力の向上などが見られ、他にも体育や図工・美術などさまざまな教科でも活用が広がっている。また、教員間のコミュニケーションも増え、授業の質が高まったとする(菅原氏)。課題としては、授業規律ができていないクラスでは導入効果はないこと、教員側がシステムトラブルでも冷静に対処できることなどをあげた。特に、トラブル対応には、ICT支援員の存在は重要で、かつトラブルを想定したバックアップ機器やプランB(代替授業、教材など)を準備しておくことも重要だとする。

 荒川区では、これらをもとに9月には区内30校(小学校21校、中学校9校)に8,300台のタブレットを投入する計画だ。モデル校と合わせて中学校は完全に1人1台体制となり、小学校では複数クラスでの共有となるが、実現すれば全区で活用時における1人1台体制になる。教材コンテンツは教育委員会のセンターサーバーで管理し専用のポータルサイトを構築して、ダウンロードや共有をすばやくできるようにする計画だ。

 規模や条件が異なるため比較はできないが、佐賀県は4か年計画で改善を繰り返しながらも県立高校36校に一斉導入などスピード感がある。マスコミなどでも取り上げられ全国的な注目度も高い。荒川区は取組みを地道に着実に実現させている感がある。トラブル前提でプランB体制の準備などリスク管理も機能しているといえるだろう。

 質疑応答では、マニュアルレス、教員採用時に電子黒板による模擬授業を必須にするなどの取組みについて、ベテラン教師を排除することになるのではないかと懸念が示された。荒川区では、電子黒板もタブレットも直観的な操作が可能で、思ったほど若手・ベテランの差はないとした。ICT支援員の存在も大きいが、ベテラン教師は授業力の高さでカバーできるという(菅原氏)。佐賀県も、模擬授業で電子黒板をうまく使えた若手の先生も現場では困ることがあり、むしろ50代の教師のほうが自分のスタイルにうまく電子黒板を活用するなど、若手教師との相乗効果も認められるとした(福田氏)。
《中尾真二》

中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。エレクトロニクス、コンピュータの専門知識を活かし、セキュリティ、オートモーティブ、教育関係と幅広いメディアで取材・執筆活動を展開。ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から使っている。

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