どうなっている?「通知表」の付け方…子どもを伸ばす親の心得

 学期末に渡される「通知表」。通信簿や「学習の歩み」などと呼ばれるこの成績表、一体どのようにして付けられているのだろうか。先生の通知表の付け方や、子どものよりよい成長に向けた通知表との向き合い方について聞いた。

教育・受験 小学生
夏休みがやってくる!「通知表」はフル活用しよう(画像はイメージです)
  • 夏休みがやってくる!「通知表」はフル活用しよう(画像はイメージです)
  • 「学期末のまとめのテスト」の読み解き方 画像作成:リセマム編集部
  • 「個別の課題表」鈴木邦明氏がクラス担任だった時代、夏休みに入る前に配布したもの 画像提供:鈴木邦明氏
 2018年の全国的な夏休みも目前。学校の学期制によっては、夏休み前最後の登校日に「通知表」をもらってくる時期だ。

 「通知表」は「通信簿」や「通信表」、「学習のあゆみ」とも呼ばれ、子どもの学校でのようすや学習状況を記録したもの。保護者世代にとっては、夏休み・冬休み・学年終了時にもらうもの、としての認識が強いのではないだろうか。

 授業や生活のようすが可視化されるものであることから、通知表の配布時期が近づくと「テストの点数と評価は関係ない」「先生の好みで決められている」「学級委員や○○長を経験すると良くなる」などのウワサがささやかれ、わが子へ評価への理由(ワケ)を知りたいという声も多い。

 子どものより良い育ちのため、保護者はこの時期、どのようなことを意識したら良いのだろうか。「通知表には読み解き方がある」とアドバイスするのは、帝京平成大学講師・鈴木邦明氏だ。

 神奈川県と埼玉県で計22年、小学校教諭として教壇に立ち、クラス担任としての経験も豊富な鈴木氏に、先生はどうやって通知表を付けているのかという疑問から、子どもの未来を豊かにする通知表の見方について聞いた。

どう見る?「通知表」
保護者のためのチェックポイント

・通知表の種類と基礎知識
・通知表の付け方 評価の仕組みとは
・通知表より大事な○○
・保護者の心構え
・通知表を使った子どものPDCA


どう見る?通知表 種類と基礎知識



 一般的に、小学校では学期末に成績などを記した通知表(あゆみ)が配布されています。通知表は、学校や学年にもよりますが、各教科とも3段階(◎◯△、321)や5段階(54321)で示されることが多いです。

 子どもも親も、「◎が何個増えた(減った)」と一喜一憂していることが多いと思います。しかし、小学校の教員として長く現場に携わった経験から、通知表の評価で子どもも親も感情を乱すことには少し違和感があります。

 ◎などの一般的な通知表の評価は、その期間のある教科の一般的傾向を示しているに過ぎません。たとえば、小3の算数は、1学期に九九の復習、時間、長さ、大きな数、2桁の割り算などに取り組みます。通知表の評価は、それらを網羅(平均)して決めています。

 算数だけでなく、ほかの教科も同様です。1学期の評価は、その期間(1学期の間)に取り組んだもののまとめとしたものが数値として表されています。つまり、通知表を見るうえで本当に大事なことは、どの単元ができていないのかということになります。もし、1学期の算数の評価が「◎」であったとしても、大きな数に関しては理解が十分でないということもあり得ます。

 なお、通知表の成績の付け方は、現行の学習指導要領に変わった2002年(小中学校の場合)に「相対評価」から「絶対評価」へ変更されました。これにより、クラス内で「◎」や「5」をもらう児童生徒は一定に限られていたところ、相対評価に変わったことで、基準を満たせば最高評価がもらえるようになりました。保護者世代と今の子どもでは、通知表そのもののあり方が異なっています。

通知表の付け方 評価の仕組みとは



 では、実際にどのように先生が評価を決めているのか、少し仕組みを説明します。

高校合否に関わる中学生の場合



 成績を付ける際の規準(ものさし)は細かく決められています。特に、中学校における成績はそのまま高校受験の合否判定に関わることから、細かく基準が設けられています。きちんと外部に対して説明できる形でないと、公平でなくなってしまうからです。

 また、教科による違いはありますが、同じ教科の中では必ず同じ規準で評価をしています。ひとつの学年の英語の授業を3人の教員で担当している場合は、事前に3人で評価規準について詳細まで詰めます。

小学生の場合 テストとそれ以外の付け方



 小学校における成績は中学校ほど試験の合否に影響しませんが、中学校同様、きちんと説明することができるようにしています。教科毎に「◎」に相当する「A規準」、「◯」に相当する「B規準」を親に示している学校もあります。

 先ほど例に出した小学校3年生の算数で説明しましょう。

 たとえば、その学期に「九九の復習」「時間」「長さ」「大きな数」「2桁の割り算」の5単元に取り組んだとします。算数の場合、評価の観点は「算数への関心・意欲・態度」「数学的な考え方」「数量や図形についての技能」「数量や図形についての知識・理解」の4つあります。それぞれの単元において4つの観点における数値(テストの点数など)を定め、最終的にそれらの平均を出していきます。

 テスト以外の評価の部分は、ふたつのやり方があります。

 ひとつは、宿題などの提出状況や授業における積極性などを数値にし、それらを「関心・意欲・態度」とするものです。それぞれの単元においてそれらを算出、平均を出していきます。

 もうひとつのやり方は、4つの観点のそれぞれで普段の授業のようすなどを数値化し、テストの点数と同様に処理していくものです。この評価では、特に提出物を「出した・出さなかった」などの評価がはっきりと出ます。教師としては、親に説明を求められた時にも「提出物の状態が10回のうち、3回出ていないので、そういった評価になりました」と言うことができます。

 締切りにルーズだと、社会に出てから信用されない人になってしまいます。提出物の期日を守る、時間は守るなどのことは、小さなころから習慣づけさせたいですね。通知表からは、そういった生活態度の見直しをはかるきっかけを得ることもできるのです。

 通知表の作成については、たとえば埼玉県の例なら、同県がWebサイト内の「学級経営のページ」に掲載している資料「学級経営講座-月別編- 7月の学級経営 通知表(票)・通信簿の作成」を参考にできます。教師向けに書かれたものではありますが、保護者にとってもわかりやすい説明がなされていると思います。

通知表より大事? 「学期末のまとめのテスト」の活用を



 ところで、学期末という区切りに子どもの学びの状況を把握することができるものは、実は「通知表」よりも「学期末のまとめのテスト」です。「まとめのテスト」は、その学期に取り組んだ内容をすべて網羅するように作られています。この結果を見れば、子どもの理解状況がよくわかります。

 特に、算数は積重ねが大事な教科であり、もし十分に理解ができていない部分があれば、その後しっかりと対応することが望ましい教科です。たとえば、小学校2年生の学習内容である九九の理解が十分でなかったとしたら小学校3年生が取り組む「かけ算の筆算」「わり算」などの理解は困難になります。

 しかし、通知表の評価だけでは、大まかな出来・不出来しかわかりません。問題点がわからなければ、対応できないのも当然です。そういった場合に活用でき、次の学期への学習めやすともなるのが、この「学期末のまとめのテスト」の結果なのです。

「まとめのテスト」はこう読み解く



 「まとめのテスト」は、子どもの抱える理解への問題点を把握するために重要な役割を果たします。

 たとえば、小学校3年生は、1学期に「九九の復習」「時間」「長さ」「大きな数」「2桁の割り算」などに取り組みます。まとめのテストで、配点が「九九の復習:20点」「時間:20点」「長さ:20点」「大きな数:20点」「2桁の割り算:20点」だとします。

 では、このテストの点数が85点だったとしましょう。同じ85点でも、得点の組合せにはいくつかのパターンがありますね。具体的には、「九九の復習:20点」「時間:15点」「長さ:15点」「大きな数:20点」「2桁の割り算:15点」という場合と、「九九の復習:20点」「時間:20点」「長さ:20点」「大きな数:5点」「2桁の割り算:20点」という場合があります。

「学期末のまとめのテスト」の読み解き方 画像作成:リセマム編集部
学期末のまとめのテスト、どう見る?

 この場合、問題があるのはどちらでしょうか。実は、後者のほうが問題です。同じ「85点」でも、明らかに後者の場合は、「大きな数」の理解が十分ではないということが予想されます。

 こういったつまづいているポイントや単元がわかるのが、「まとめのテスト」なのです。このケースではおそらく、通知表では前者も後者も同じような評価になると思います。「まとめのテスト」では、通知表だけでは見つけられない子どもの問題点を見つけることができるのです。

 そうやって見つけた子どもの課題は、夏休みなどの期間を使ってリカバーしておきましょう。何度も繰り返すとおり、学び、特に算数は積重ねが大事です。へこんでいる部分をケアすることが、その後の着実な学びへと繋がります。

 私は学期末に、それぞれの子どもの課題が見えればと、個別の課題を記したプリントを配布していました。その学期に取り組んだ内容(たとえば、九九、三角形、大きな数など)の中で、その子どもの理解が十分でないものに印を付け、通知表と一緒に渡していました。はじめは算数だけだったのですが、その後、ほかの教科や生活習慣に関する部分まで範囲を広げました。

「個別の課題表」鈴木邦明氏がクラス担任だった時代、夏休みに入る前に配布したもの 画像提供:鈴木邦明氏
実際に配られたプリント 「夏休み中、何に取り組んだらよいかわかった」との声があったそうだ


結果だけを見ないで…子どもを伸ばす心得



 通知表を持って帰ってきたら、どのように声をかけていますか。できれば、子どもに声かける際は、「結果のみを見ない」で、「過程」に注目して声をかけてあげてください。

 通知表の評価は、すでに述べたように、その期間(夏休み前なら4月から7月まで)の「結果」が示されたものです。良い結果、たとえば「◎が増えた」「△が減った」という時もあれば、悪い結果「◎が減った」「△が増えた」という時もあります。大事なことは「結果」ではなく「過程」なのだと思います。

行動と良い結果の関係に気づかせる



 良い結果の時には、本人が色々と努力をしたのかもしれません。保護者が声をかけるなら、そのような努力の部分を評価するとよいでしょう。「いつも家から帰ったらすぐに宿題を終わらせていたからだね!」「小テストで間違えた所をきちんと復習したからだね!」などの言葉を親がかけることで、子どもの中で「きちんと取り組んだこと、努力したこと」と「良かった結果」とが結びつきます。きちんと取り組んだり、努力したりしたからと言って、毎回うまくいくわけではありません。しかし、自分の努力と良い結果が結びつく経験を何度も得た子どもは、「過程」の大切さを学んでいきます。

良い点数で「お小遣い」は逆効果



 しかし、「結果」のみに焦点を当ててしまうとそうはいきません。極論、「良い結果であればズルをしてもよい」ことになってしまいますね。結果を追い求め、カンニングなどのズルをしてでも100点を取ろうと思う状況は、子どもにとって明らかに良くない状況です。大人の世界でも、ズルや嘘などによるトラブルがニュースなどで取り上げられています。そういったトラブルを引き起こしてしまう人は、育ちの中において、ズルをして得をするような経験をしてしまっているのかもしれません。

 そういった意味では、「テストで100点を取ったら100円あげる」など、良い結果とご褒美を結びつける方法はあまりお勧めできません。一時的な意欲の向上にはなりますが、中長期的で見ると、意欲の維持には繋がりません。金銭的にも、「ものでつる」ようなやり方は続けていくことはできません。そもそも、その仕組みをやめた途端、子どもの意欲は大きく低下します。そういったことよりも、学びの意味は「自分の能力を高めること」「選択肢を増やすこと」「社会貢献すること」などにあります。報酬で結果を導くより、子どものころからそういったことを伝えている家庭のほうが、より良い育ちにつながるのだと思います。

 なお、この「ものでつる」教育方法については、アメリカで行われた有名な社会実験があります。子どもの読書量を増やそうと試み、子どもが本を1冊読むごとに一定のお金(日本円で数十円)をあげる、というシステムを設定したのだそうです。実際にやってみると、たしかに子どもの読む本の数は増えました。しかし、子どもたちは冊数を稼ごうとするあまり、薄い本や簡単な本を読むようになってしまったそうです。そのうえ、取組みをやめた途端、本をあまり読まなくなったとのことです。

未来につながる「通知表」



 通知表の結果が悪かった場合には、その結果を見て、親が真っ赤な顔になって怒ってもあまり意味はないかもしれません。それよりも「過程」に目を向け、「何が悪かったのだろうね?」と子どもと一緒に問題点を見つけるような雰囲気だと良いのだと思います。親から見て、正しい答えがわかっていたとしても「あなたの〇〇が悪かったのよ!」とは言わず、子どもが自分で考え、気づくことができるような状況にしていきたいですね。

 そして、子どもが見つけた問題点は、次の学期でなくすよう心がけた生活を送るよう応援してあげましょう。親がフォローできることもたくさんあると思います。それで、次の学期末に成績が上がったら、「結果」以上に「過程」を褒めてあげるのです。

 この一連の過程は、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Act(改善)」の頭文字を並べ、「PDCA」サイクルと言われる行動方法に沿うものです。別の見方では「課題解決型学習」とも言えるでしょう。自ら課題を見出し、それを解決する方法を考え、実行していく、というものです。こういった経験は、その後の学びにおいても大きく役立ちますし、大人になってから仕事をする中でとても大切になってきます。学校での学びと違い、大人になってからは、正解のない中でより良い答えを探していくことが求められるのです。

 今回は、学期末の評価、通知表、まとめのテストなどについてまとめました。学期末、そしてその後の長期休業は、子どものより良い育ちにおいて重要な時期です。学校がある時よりも、家庭の影響が強く出てくる時期です。しっかりと現状を把握し、それらに適切に対応することが大切でしょう。より良い学期末、そして夏休みとなることを願っております。
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 「リセマム」は今後、有意義な夏休みの過ごし方について鈴木邦明氏からのアドバイスを掲載予定。今回の「通知表」に関する記事とあわせてお読みいただければ幸いだ。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
平成7年 東京学芸大学教育学部 小学校教員養成課程理科専修卒業。平成29年 放送大学大学院文化科学研究科生活健康科学プログラム修了。神奈川県横浜市、埼玉県深谷市で計22年、小学校教諭として勤務。現場教員として子どもたちの指導に従事する傍ら、幼保小連携や実践教育をテーマとする研究論文を多数発表している。こども環境学会、日本子ども学会など、多くの活動にも関わる。平成29年4月からは小田原短期大学特任講師、平成30年4月からは帝京平成大学講師として、子どもの未来を支える小学校教諭、幼稚園教諭、保育士などの育成や指導に携わる。
《鈴木邦明》

鈴木邦明

帝京平成大学 人文社会学部児童学科 准教授。1971年神奈川県平塚市生まれ。1995年東京学芸大学教育学部卒業。2017年放送大学大学院文化科学研究科修了。神奈川県横浜市と埼玉県深谷市の公立小学校に計22年間勤務。2018年からは帝京平成大学において教員養成に携わっている。「学校と家庭をつなぐ」をテーマに保護者向けにも積極的に情報を発信している。

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