起業の原動力は「怒り」MIT出身の教育起業家「スコラボ」前田智大氏インタビュー<前編>

 加藤紀子さん連載「教育の今と未来」。今回のゲストは、対話型探究プラットフォーム「スコラボ」を立ち上げた起業家の前田智大さん。前田さんは高校まで日本で教育を受け、東大を経て大学・大学院を米国のマサチューセッツ工科大学で学び、日米の教育差を体感したという。

教育・受験 小学生
スコラボ共同創業者 前田智大さん
  • スコラボ共同創業者 前田智大さん
  • オンラインインタビューのようす
  • クラスのようす
  • スコラボのクラス例
  • スコラボのクラス例
 新しい学習指導要領で謳われている思考力・判断力・表現力と、自ら学びに向かう力。

 こうした力を育むため、今後学校で重点的に取り組むことになるのが「探究型学習」だ。ところが、親世代が受けてきた教育は、設問の正解を導くための知識・技能の習得が中心で、自ら問いを立てたり、自分の考えを論理的にまとめ、説明したりする機会はほとんどなかった。そのため、せっかく子供が探究の入り口に立っても、その先をどう深掘りしたり、広げてあげたりすれば良いかがわからないのが悩みどころだ。

 このように戸惑う親に代わり、子供がもつ興味・関心から楽しく学べる体験、学びをより深める体験を提供してくれるのが、対話型の探究プラットフォーム「スコラボ」だ。

 高校まで日本の学校で教育を受けた後、大学・大学院をアメリカのマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)で学び、日米の教育差を体感して「スコラボ」を立ち上げた前田智大さんに話を聞いた。

「対話」を重視「スコラボ」



--はじめに、スコラボではどのような教育サービスを提供されているのかを教えていただけますか。

 スコラボは子供たちの興味・関心をベースに、子供たちが主体的に学んでいけるクラスを提供しています。子供がテレビや本などをきっかけに、何かにちょっと興味をもって「もっと知りたい」となった時、保護者に専門知識がないとそれをサポートするのは大変ですし、身近に専門家がいるなんてこともなかなかないですよね。

 実はこれまで、子供が興味をもったことを伸ばせる教育の選択肢がなかったのです。塾でも楽しく勉強はできますが、あらかじめ決まったカリキュラムのため、子供ひとりひとりの興味に寄り添うことは難しい。その点スコラボでは、子供の興味に合ったクラスを選び、少人数の対話型スタイルで学べるので、興味を深め、学びが楽しいと思える経験が積み上げやすくなっています。スコラボの講師はさまざまな分野の専門家で、子供にもわかりやすく噛み砕いて説明し、子供からの質問や意見にもその場で応じながら、楽しく学べる時間を生み出しています

--興味を自由に選択できるだけでなく、少人数でオンラインの「対話型」という設計がユニークだなと感じました。

 スコラボでは「対話」を大事にしています。保護者の方に聞いてみると、子供たちはYouTubeのように録画されたコンテンツを一方的に見る形式だと、自分が興味のないところでは集中力が切れてしまうなど、保護者の方がそばで見ていないと集中力が続かないようです。その点、スコラボのクラスは1コマ約1時間ほどですが、講師の先生方には「子供たちが頭を使っている時間をいかに長くするか」というところを一番意識してほしいとお願いしています。

--問いを投げかけるなど、子供たちとの対話を通じて頭を使わせるわけですね。

 クラスでは、子供たちが自分で考えて発言したり、他人の意見を聞いて考えを深めたりできるようなデザインを意識しています。私自身も教えていますが、5分以上は話さないようにしているんです。

--大人の発話量が少ないと、子供たちは自然とたくさん話したり、考えたりするようになるんですよね。

 そうですね。講師が「こういうことかな?」と子供にその都度確認したり、ひとりひとりに発言の機会を与えたりするので、普段学校では引っ込み思案な子でも積極的に挙手するようになって保護者が驚かれることもよくあります。少人数だからこそ、深い考えを促すような質問も交えるようにしていて、子供たちは集中して取り組んでいます。

スコラボのクラスのようす

起業の原動力になったのは「怒り」



--前田さんはMITで電子工学を専攻され、大学院では最優秀論文賞を受賞されるなど、研究者としても前途洋々だった中、なぜあえて少子化の進む日本で、教育事業を起業しようと思ったのですか。

 アカデミックな研究は社会の発展には不可欠ですが、僕はもう少し社会に近いところで、自分がやっていることに価値があるのかどうかを日々問われるような立場から社会に貢献したかったんです。そこで起業の原動力になったのは「怒り」の感情です。

 日本では、試験で点数を上げるという競争にさらされ、どうしても子供たちの学びの楽しさがどんどん薄れていってしまうんですよね。みんな真面目に努力しているのに、主体的にではなく勉強をやらされている感覚なので、大学入学以降、爆発的に力を伸ばせるエネルギーがなくなってしまう人が多いなぁと。そういったところに「怒り」を感じて、新しい教育の形をつくりたいと思ったんです。

--アメリカの大学に行ったこともきっかけになっているのでしょうか。

 はい。アメリカの大学に入って一番驚いたのは、理系のトップスクールであるMITですら、学生の学力はそんなに高くはないということでした。日本の理系の高校生であれば、一般的な模試の偏差値で50くらいの学力ならMIT入学時に十分通用するレベルです。ただしMITの学生は、そこから4年間かけてものすごく伸びて、社会で活躍する人材に成長していく。

 日本の場合には大学に入ったら向学心をなくしてしまう人が少なくないのに、彼らは自分の興味・関心をベースにし、生き生きと主体的に学びに向かっていく姿勢が違うんです。

--なるほど。前田さんは大学以前は日本の教育を受けておられますが、その時の体験の中にも今の事業に繋がっていることはありますか。

 公立の小学校から中学受験をし、灘中学校に入りました。「良い学校」と呼ばれる学校でしたので、世間からは「才能」という言葉で片づけられることがしばしばありましたが、灘で中高6年間を過ごしてわかったのは、本当に賢い人たちは学びを楽しむ人たちだということ。歯を食いしばって勉強! みたいな人は、楽しいという感覚でやっている人にはなかなか追いつけません。

 わかりやすく言うと、子供ってゲームが大好きで、のめり込むじゃないですか?あの感覚で学ぶ人たちなんです。それに対し、ゲームが大して好きでもないのに無理矢理させられても、ゲームは一向に上達しませんよね。「楽しむ」ということが、学力を向上させるだけではなく、生き生きとした日常を過ごすのにも大事だというのは、灘でもMITでも強く感じましたね。

--とはいえ日本は少子化で、教育産業は競争過多のレッドオーシャンです。そうした中でこの事業を始めることに難しさは感じませんか。

 私自身はレッドオーシャンの中にスコラボを位置付けているわけではありません。確かに教育事業は受験にフォーカスすれば、決まったカリキュラムで入試対策をするという点でコモディティ化していますし、名物講師の授業であっても配信系のサービスが普及し、どこからでもアクセスできるようになって差別化がしにくくなっています。一方で私たちは、Zoomが普及した時代に子どもたちがユニークな先生、クラスにアクセスできるというところで新たな習い事市場を作っています。いきなりレッドオーシャンに飛び込むことはせず、さらにユニークな先生が揃うのでレッドオーシャンに入っても優位性を保てると考えています。

スコラボのクラス例


--スコラボのサービスを見ると、まさにこれから小中高で本格的に実施される「探究」の領域で威力を発揮できそうです。

 その流れは感じています。国が探究学習やSTEAM教育を推進していることや、大学入試でも試験一発勝負ではなく、探究活動などを評価の対象にする総合型入試が広がってきていることなどは、追い風になるでしょう。保護者にしてみれば、自分達の世代がそうした経験をしてこなかっただけに、スコラボがつくり出す「子供が学びたいことを深く学べる経験」に価値を見出してくれるのではないかと思っています。

日本の教育の課題は「子供主体」の場づくり



--一方で私は、これまでの日本の教育、特に小学校から高校までの教育には、世界的に見ても強みと言える部分があると思っています。その点、前田さんは実際にアメリカと日本、両方で教育を受けてみて、何か感じたことはありましたか。

 日本の教育の強みは、効率的に学力が身に付けられる点にあると思います。ご指摘のとおり、特に高校までの段階でかなりの学力が身に付くカリキュラムがあるのは日本の強みで、さらに最近ではAI(人工知能)によって以前よりもっと短い時間で学力を身に付けられるようになってきています。

--学習の個別最適化は、その子に合ったペースで、学力を効率的に身に付けさせてくれるようになりますね。取材で現場の先生方の話を聞いてもそれは最近よく実感しています。

 学校での学びには、習得、探究、活用の3つの柱があり、これまでは習得の部分に重きが置かれてきましたが、学習の個別最適化によって習得にかかる時間が短くなると、その分探究と活用というところにもバランスよく時間を割くことができるようになります。そうすれば日本の子供たちのポテンシャルをもっと引き出せるのはないかと考えています。

--日本の教育の現状を見て、課題だと感じることは何でしょうか。

 私はよく耳にする「手厚い指導」という言葉には強い違和感を覚えます。何を学ぶか、どう学ぶのかは自分で決めるべきなのに、それをじっくり考えて決める時間がないような教育になっているのは深刻な問題です。教育全体としては自分で考え、課題を設定して解決する力が問われる方向に向かっていますが、そのためには子供主体で考えられる場が必要です。

 けれど現状は、保護者も学校も与えすぎていて、子供たちは「あれもこれもやりなさい」と言われたことを消化するだけの毎日。自分のスケジュールすら管理させてもらえないケースも少なくありません。そうやって自分のことを自分で決める主体性、自分の人生に対するオーナーシップがどんどんなくなってしまう教育だと、どんなに高い学力を身に付けても、一歩世界に出れば先ほど言ったような生き生きと学びに向かう主体性のある人たちに一瞬で抜かれてしまう。そこは気をつけないといけないところです。

オンライン取材のようす

--教育現場では知識・技能の習得はこれまでどおりで、さらにそのうえにプログラミング、英語、探究など、次々と新たなタスクが降りかかっており、子供たちはどんどん忙しくなっています。親としても良くないと思いつつ、自分が経験したことがないだけに、不安を感じてしまうのもわかるのですが、勉強や習い事の取捨選択はどうしたらいいと思いますか。

 子供たちが辞めたいと思っているものは一旦距離を置くというのも、余裕をもつうえでは必要なんじゃないかなと思いますね。一番大事なのは、子供たちの「納得感」だと思うので。ただ、ちょっとややこしいのは、大人の立場からすると、「今は子供だからわからないがやっておいた方がいいだろう」と思えるものが多すぎることなんですよね。そうなると、やはり親子の「対話」しかないのかなと。

 たとえば英語であれば、「将来のためにやりなさい」と嫌がる子に無理にやらせても、子供はなんで学ばないといけないかが想像できない。むしろ「将来どんなことがしたい?」とか「これからはいろんな国で仕事ができるけれど、どこに住んでみたい?」といったところから始めて、英語ができたら選択肢が増えたり、人の輪が広がったりすることを伝えつつ、子供が納得のいくところまで対話し尽くすっていうのが大事なんじゃないでしょうか。

--子供たちは勉強を後回しにしてゲームばかりやるので、しょっちゅう親子のいさかいの原因になってしまうのですが、私たち大人でも、自分が興味のないことを無理にやらされると「めんどくさい」と感じますよね。だからといって親としては放っておくわけにいかないのが子育てのすごく悩ましいところです。

 嫌だけどやるということは、自己実現には必要ですからね。ただ、納得せずに嫌なことを繰り返すと主体性がなくなります。やりたくないことでも、それをやるべき理由づけは必要だと思います。

 最近、孫正義育英財団の財団生で、16歳から東大で研究し、17歳でカーネギーメロン大学に飛び級で進学した子と話す機会がありました。彼も一時期勉強をせず、親に隠れてゲームに没頭していた時期があったそうなのですが、どうやってそこから抜け出したかというと、やはり親との「対話」だったそうです。「なぜ、勉強する気がなくなったのか」「なぜ今、これを勉強した方がいいのか」等、対話を重ねるうちに少しずつ納得感が感じられるようになっていった、と言っていました。

 子供が幼いうちは難しいかもしれませんが、対話を通じてそうした自律性を育んでいくのはとても大事なことなんじゃないかなと思います。

 >>「子供に「自分の進路を悩んで選ぶ力」を…スコラボ前田智大氏インタビュー<後編>」へ続く

加藤紀子(かとう のりこ)1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。一男一女の母。2020年6月発売の初著書「子育てベスト100」(ダイヤモンド社)は、2021年8月現在累計17万部発行のベストセラー本となり、教育関連の書籍では異例の大ヒット作に。(写真撮影:干川修)

《加藤紀子》
加藤紀子

加藤紀子

1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。一男一女の母。

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