初等教育から広く利用できるMOOC…国内外比較とまとめ

 BL(ブレンディッドラーニング)の中心的な方法論である「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準」を実践するうえで欠かせないのが、映像授業や演習問題ソフト、学習アプリ、校内SNSなど、ネット環境やデジタル機器の進化がもたらしたICTツールです。

教育ICT 小学生
初等教育から広く利用できるMOOC…国内外比較とまとめ(画像はイメージ)
  • 初等教育から広く利用できるMOOC…国内外比較とまとめ(画像はイメージ)
  • iPAL「カーン・アカデミー講座」小松健司訳付
 これまで4回にわたりブレンディッドラーニング(BL)についてご紹介してきました。BLの中心的な方法論である「個別カリキュラム+学習者主導+達成度基準」を実践するうえで欠かせないのが、映像授業や演習問題ソフト、学習アプリ、校内SNSなど、ネット環境やデジタル機器の進化がもたらしたICTツールです。

◆ブレンディッドラーニングに不可欠なMOOC

 なかでも特に重要なのが、MOOCを中心とするオンライン学習講座です。アメリカを中心に数十あると言われるMOOCのうち、初等教育で広く利用されているのは有名な「カーンアカデミー」です。すべて無料で、算数・数学のコースは小学校から高校で教えられている内容をほとんど網羅しています。ひとりひとりの学力レベルとペースに合わせて進めるアダプティブラーニングに最適で、演習問題を解いて理解が不十分だと判定されれば、関連する単元のビデオ解説を何度でも見返すことができます。

 国語(英文読解)については、Lexile(レクサイル)指数などで表される各自の読解力に見合った内容の文章を適度なスピードで提供し、読書速度の計測機能と簡単な理解度確認クイズが付いた「Achieve3000」などの市販ソフトが使われるケースが多いようです。自分が読破した書籍が仮想本棚に蓄積され、知らず知らず相当な読書量に達していたという話をよく聞きます。日本語で似たような教育用の速読聴サービスとして「ことばの学校」や「わくわく文庫」がありますが、著作権の関係で掲載タイトルが限定されているのが残念です。9月からアマゾンで「聞く書籍」(Audible)のサービスが開始されましたので、子ども向けのタイトル数が増えて朗読スピードを調整できる機能が付けば、読解力養成手段として利用できる可能性がありそうです。

 日本の学習塾や学校向けには、「すらら」や「天神」、「セルフィ」など主要教科をカバーし学習指導要領に準拠した有償のeラーニングソフトがいくつか販売されていますが、無料で小中高全学年の主要科目を全てカバーしたオンライン講座はありません。

 そこで、「eboard」や「怪盗ねこぴー」など無料オンライン学習サイトを必要科目と学力レベルに応じて使い分ける必要があります。有料のオンラインサービスであれば、リクルートの勉強サプリ(小4~中3生向け、月額980円)やアオイゼミ(中高生向けライトプラン、月額900円)で主要科目の授業動画を視聴することができます。7月からは家庭教師のトライが中学高校主要科目のオンライン映像授業「Try It(トライイット)」を無料で提供し始めました。9月からはソフトバンクとベネッセの合弁会社Classiが5分前後の教材動画を1万本以上、中学・高校限定で提供し始めています。

 映像授業には講師による講義を録画したものからアバターが要点を説明するもの、解説ナレーションだけのものなどさまざまな種類があります。また、重点を要点解説か問題演習に置くかによって長さも3分から20分超まで大きく異なります。小学校から高校の先生方が導入する場合は、各学校で対象とする学年、科目、学力レベルなどを勘案してどのようなソフトまたはプログラムが最適なのか十分検討してください。端末は、生徒ひとりひとりにタブレットを配布できれば理想的ですが、デスクトップ型PCならば生徒5人に1台程度の配置でも上手く回せれば対応可能です。

◆MOOCは教育格差の解消に役立つか

 MOOCが世に出始めた当初は、MOOCは世界の教育格差の解消に一役買うのではないかと期待されました。ネット環境と端末さえ整えば発展途上国の貧困層の人々も平等に教育の機会を得られると考えられたからです。しかし現実には、世界にはまだネットへのアクセスが困難な国や地域も多いうえボランティアによる翻訳が追いつかず、英語がある程度理解できないと受講が難しいことも事実です。このため、現実にはMOOC受講者の多くが(国よっては8割も)大学卒業者で、アメリカ以外では英語を公用語とするインド、イギリス、オーストラリアなどで受講者数が多いことが特徴です。

 日本では、離島や過疎地の教員不足による教育格差を解消するため、高校での遠隔授業が来年度から容認されます。ただし教育には対面による臨場感や触れ合いが重要だという理由から、導入されるのはリアルタイムで生徒が配信側の教員と質疑応答できる「同時双方向型」で、事前収録した授業を視聴する「オンデマンド型」は、不登校生徒に病気療養中の生徒や障害などで通学が困難な生徒など対象が一部拡大されるだけです。多くの高校生がスマホで受験勉強をする時代に、この対応は相当遅れている感は否めません。

 また、日本の大学進学率が過去20年で20ポイント超上昇して実質大学全入時代を迎えたと言われる反面、都市と地方との差は2倍近く拡大しています。地方の過疎化と都市部への人口集中により、閉鎖する地方大学・学部が増えると同時に、都市部での生活費負担が大きくなっているためです。こうした矛盾を解決するためには、アメリカのようにMOOCが質量ともに充実するよう政府が補助することが望まれます。日本でもアメリカから数年遅れて昨年ようやくJMOOCが始まりました。まだ講座数は限定的ですが、これが順調に拡大して、近い将来、意欲のある人は「誰でも・いつでも・どこでも・何でも・マイペースで」勉強できる環境が日本でも整うことを期待します。

 【次ページ】「MOOCの真の醍醐味」と日本語訳付き動画「カーン・アカデミー講座」へ
《小松健司》

【注目の記事】

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top