アプリ甲子園2017、優勝は慶應SFC高3年・西村佳之さんのSNSアプリ「Nekt」

 10月15日、全国最大規模のスマートフォン向けアプリコンテスト「アプリ甲子園2017」の決勝大会が、主催のD2C本社で開催された。優勝および総務大臣賞は慶應義塾湘南藤沢高等部3年生の西村佳之さんによる、スケジュール共有SNSアプリ「Nekt」に決定した。

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最後にファイナリスト全員で記念撮影
  • 最後にファイナリスト全員で記念撮影
  • プレゼン前にファイナリスト全員が登壇
  • 「Drying Assistant」の内山史也さん
  • 「Calm」の西林咲音さん
  • 「ReStudy」の間山千寛さん
  • 「メモリーカプセル」の藤本結衣さん
  • 「DayTree」の柴原佳範さん
  • 「回一首」の菅野晄さん
 10月15日、全国最大規模のスマートフォン向けアプリコンテスト「アプリ甲子園2017」の決勝大会が、主催のD2C本社で開催された。厳正なる審査の結果、優勝および総務大臣賞は慶應義塾湘南藤沢高等部3年生の西村佳之(にしむら かいし)さんによる、スケジュール共有SNSアプリ「Nekt」に決定した。決勝大会のようすをレポートする。

アプリ甲子園とは



 「アプリ甲子園」とは、全国の中高生がスマートフォンアプリの開発を競う大会。7回目を数える今年(2017年)からは総務省が後援し、優勝者には総務大臣賞が授与されることになった。一次選考、二次選考を経て、数多くの応募作品から選ばれたファイナリスト10組の学生たちが、自らの開発したアプリのプレゼンテーションに臨んだ。

 決勝では「企画力」と「実装力」が問われる。企画力審査では、独創性・デザイン・消費者支持度を、約4分間のプレゼンテーションを経て審査する。実装力審査では、ソースコードや実機を触りながら、操作性・技術点・完成度を審査し、採点する。

 審査員は、審査員長である齋藤誠一氏(Rhizomatiks Creative Director/Technical Director)、岩谷徹氏(ゲームクリエイター/東京工芸大学 芸術学部 ゲーム学科 教授)、谷本有香氏(フォーブス ジャパン副編集長 兼 WEB編集長)、中澤仁氏(慶應義塾大学環境情報学部准教授/博士)、米澤香子氏(電通 クリエーティブ・テクノロジスト)らが、技術審査員は五十嵐裕貴氏(パワーハウス ビジネスソリューション部 ディレクター)氏が務めた。

 D2C代表取締役社長、宝珠山卓志(ほうしゅやま たかゆき)氏の開会の挨拶に続き、緊張した面持ちのファイナリストたちによるプレゼンテーションが開始された。ファイナリスト10組のアプリを、プレゼンテーション順に紹介しよう。アプリごとに、企画力審査の結果も公開する。

2017年ファイナリストによる作品と企画力



「Drying Assistant」内山史也さん/横浜国立大学教育学部附属横浜中学校2年


【企画力】独創性:83点、デザイン性:82点、消費者支持度:86点 計251点
 洗濯物の取り込みを支援してくれるアプリ。ハンガーについているセンサーによって、洗濯物が乾くと通知する。今決勝大会では唯一のIoTツールで、ハンガーも設計からすべて自作。審査員からは、取得できるデータから生まれる発想の広がりや通知における工夫などのアドバイスもあった。

「Calm」西林咲音さん/品川女子学院高等部2年


【企画力】独創性:76点、デザイン:79点、消費者支持度:78点 計233点
 持病を持つ学生が、欠課数や自分の体調を記録できるアプリ。持病を持つと些細なことでも不安になることから、まず不安にならないことを優先し、シンプルな機能に絞ったという。審査員からは、項目をカスタマイズし選択できると消費者支持度が上がるかもしれないという意見があった。

「ReStudy」間山千寛さん/宮城県工業高等学校3年


【企画力】独創性:78点、デザイン:78点、消費者支持度:81点 計237点
 すでに採点や書き込みがあったテストや学習プリントをスマートフォンで撮影し、実際に書き込まれた部分を画像処理で消去できるアプリ。印刷すると、再度学習が可能になる。今後は消去したあとも、重要な部分だけ見ることができるような機能を追加したいとのこと。

「メモリーカプセル」藤本結衣さん/東京都立両国高等学校1年


【企画力】独創性:79点、デザイン:76点、消費者支持度:76点 計231点
 スマートフォン版「タイムカプセル」ともいえるアプリ。文章と写真を入れたカプセルをマップ上に埋めることが可能で、埋めた場所に近づくと何度でも見ることができる。審査員からは、従来のタイムカプセルにあるような、「何年後までは開かない」といった時間軸の概念がヒントとして提示された。

「DayTree」柴原佳範さん/渋谷教育学園渋谷高等学校1年


【企画力】独創性:75点、デザイン:86点、消費者支持度:77点 計238点
 日々の出来事やアイデアをライフログ的に記録できるアプリ。新しく記録するごとに画面内にある木が増えていき、森となっていく。今後は、季節感や動物などの自然環境なども取り込み、また多言語化も視野に入れたいとのこと。非常にデザインが美しいという声も多かった。

「回一首」菅野晄さん/早稲田実業学校初等部5年


【企画力】独創性:91点、デザイン性:82点、消費者支持度:82点 計255点
 百人一首の歌にあわせて、画面の下から文字が回転しながら上へのぼっていき、その文字に押されたボールが画面の外に出ないようにするゲームアプリ。菅野さんは「ただ文字があがってくるだけでは簡単だと考え、ゲームバランスを考えて文字を回転させてみた」とコメント。決勝に登壇した開発者としては現在10歳と最年少ながら、その独創的な発想の豊かさに多くの驚きの声があがった。

「Photo Disguiser」山口響也さん/三田国際学園高等学校1年


【企画力】独創性:82点、デザイン:85点、消費者支持度:83点 計250点
 iPhoneに標準搭載されている写真アプリ内の写真を、別の写真に偽装できるアプリ。元の画像ファイルにレイヤーの写真を被せることで実現している。元のデータは復元も可能だ。他人に知られたくない画像を持っている人には有用で、特に大人向けという声も多数あった。

「Nekt」西村佳之さん/慶應義塾湘南藤沢高等部3年


【企画力】独創性:77点、デザイン:83点、消費者支持度:83点 計243点
 「空いている日があるものの、友達は誰が空いているかはわからない」「わざわざ遊ぶ日を設定するのが面倒」といったニーズから生まれたアプリ。公開されてからすでに3,000超のダウンロード実績を持つ。今後はグループ機能や時間設定なども盛り込みたいという。審査員からは、どこかのベンチャーが開発しているかのようだとの評価を得た。

「SHINDo」藤田麻里さん/日本女子大学附属高等学校2年


【企画力】独創性:79点、デザイン:83点、消費者支持度:80点 計242点
 オリジナルのキャラクターが「進捗管理人」となって、利用者のタスクを管理するアプリ。キャラクターが褒めたり叱咤激励してくれたりと、利用者のやる気を引き出す工夫が盛り込まれている。不思議とキレがある独特な間合いとテンポで展開されたプレゼンテーションは、会場の視線を釘付けにした。

「天動説と地動説」関谷恒甫さん・石田薫子さん/徳山工業高等専門学校3年


【企画力】独創性:79点、デザイン:74点、消費者支持度:74点 計227点
 地球に向かってくる隕石を、オゾン層で防御し地球を守るゲームアプリ。スマートフォンのジャイロセンサーを利用。実際にゲームをやってみた審査員からは、なかなか難しいという声も。天が動く、地が動く、という違いがもう少しはっきりすると良いという意見も出た。

開発はスタート、レベルアップ継続を



 企画力を審査するプレゼンテーションがすべて終わると、アプリをインストールしたスマートフォンの実機が用意された会場外のスペースでアプリ体験タイムがスタート。実際にアプリを動かしながら、使い方などの質疑応答が10組すべてで設けられ、非常に活発な交流が見受けられた。

 アプリ体験タイムの間に、審査員は別室に移動し、実装力審査と各賞の選定に入った。しかし、審査時間は当初の予定を大幅に超えた。例年、上位と下位の差が100点ほどあるとのことだが、今回はその差が40点と非常に僅差で、それぞれのアプリのレベルが高いことが理由だった。

 長時間にわたる審査を経て、式次第は審査結果の発表と表彰式へ。まず、審査員の中澤氏からの総評では、決勝に並んだアプリのレベルの高さや、審査における激論の経緯などが語られた。そして「この結果はあくまで現段階での作品の評価と考えてほしい。受賞できなくても全否定されるものではない。アプリの開発はスタートに過ぎず、バージョンアップを続けてぜひレベルを向上させてほしい」と、ファイナリストに向けての言葉に期待と励ましが込められた。

アプリ甲子園2017、受賞者一覧



 続けて、もっとも技術力の高いアプリに贈られる技術賞および協賛各社が提供する特別起業賞が発表された。入賞アプリは下記の通り。

技術賞 「Nekt」
セガゲームス賞・パワーハウス賞 「SHINDo」
電通アイソバー賞 「Drying Assistant」
ゆめみ賞 「メモリーカプセル」


 第3位から優勝者には、下記の3名が選ばれている。

第3位「Drying Assistant」内山史也さん/横浜国立大学教育学部附属横浜中学校2年
【審査結果】操作性:80点、技術点:80点、完成度:81点、独創性:83点、デザイン82点、消費者支持度:86点 総計492点
(電通アイソバー賞と同時受賞)

準優勝「Photo Disguiser」山口響也さん/三田国際学園高等学校1年
【審査結果】操作性:85点、技術点:74点、完成度:85点、独創性:82点、デザイン85点、消費者支持度:83点 総計494点

優勝「Nekt」西村佳之さん/慶應義塾湘南藤沢高等部3年
【審査結果】操作性:83点、技術点:83点、完成度:86点、独創性:77点、デザイン83点、消費者支持度:83点 総計495点
(総務大臣賞、技術賞と同時受賞


 独創性溢れるアプリが数々発表されるなかで、西村佳之さんの「Nekt」が技術力や完成度の高さで優勝を果たした。優勝アプリを体験したい場合は、ぜひスマートフォンでアプリを検索してみてほしい。2017年10月16日現在、iPhoneのApp Storeでダウンロード可能だ。

こんなのあったらいいな…源泉は自分で考える力



 審査員の講評にもあったように、学生目線での“生活”に根ざした「こんなのあったらいいな」といった、ある意味素朴なニーズに基づくアプリが上位を占めたともいえる。今後、IoTの進展が大きな波となるなかで、大人では気づかないような視点を持った開発者、特に生活者目線の開発者がますます求められるのだろう。

 その意味では、惜しくも選外となったアプリへの期待感は高まった。たとえば、持病を持った人の些細な不安を取り除くというコンセプトのアプリ「Calm」は、児童生徒、学生だけに留まらず、他年代でのニーズも秘めているようにも感じた。書いたものを消去できる「ReStudy」は、学習への応用だけでなく、その機能が何に役立つかを考えた時に、まったく異なる側面が生まれる予感もある。

 プレゼンテーションを通じて感じたのは、ファイナリストたちの豊かな表現力や独創的な発想力の素晴らしさ。それらは「自分で考える力」が源泉なのではないかと推察される。自分で課題を見つけ、その解決方法をどうするのか、そしてコミュニケーションやプレゼンテーション中に、いかに自分を表現できるか。プログラミング教育の導入やその課題に注目が集まるなか、ファイナリストの動向も含めて、今後もアプリ甲子園にはおおいに注目していきたいと感じた。
《佐久間武》

佐久間武

早稲田大学教育学部卒。金融・公共マーケティングやEdTech、電子書籍のプロデュースなどを経て、2016年より「ReseMom」で教育ライターとして取材、執筆。中学から大学までの学習相談をはじめ社会人向け教育研修等の教育関連企画のコンサルやコーディネーターとしても活動中。

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