「好きを貫いた学び」が評価される入試を…松野知紀さん×慶應義塾大学・冨田勝先生対談

 偏差値偏重主義の大学入試に疑問を呈する声が至るところから聞こえるようになってきた。「AO入試」の創始者である慶應義塾大学教授・冨田勝氏と、今年9月から米ハーバード大学に進学する松野知紀氏との対談から、これからの時代に求められる大学入試について考える。

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「好きを貫いた学び」が評価される入試を…松野知紀さん×慶應義塾大学・冨田勝先生対談
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  • 慶應義塾大学・冨田勝先生
  • 米ハーバード大学への進学が決まった松野知紀さん
 大学入試をめぐる状況が大きく変わり始めている。大学全入時代と言われながらも、首都圏の私立大学は定員厳格化のあおりをうけて難化が進み、競争が激化している。また、今年1月からは大学共通テストがスタートし、受験生は前例があまりない中で手探りの受験勉強に忙殺されている。現代日本の大学入試において、強力な指標となってきたのが「偏差値」だ。

 一方、こうした偏差値偏重主義の大学入試に疑問を呈する声も至るところから聞こえるようになってきた。偏差値偏重主義の教育によって、こぼれ落ちるものは一体なんだろうか。「AO入試」の創始者である慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の冨田勝教授と、地方公立高校から米ハーバード大学に進学する松野知紀氏との対談から、大学入試の展望と、これからの時代に求められる力を育むためのヒントを探る。

点数を評価する一般入試、人間を評価するAO入試



冨田氏:松野さんは海外在住経験なし、日本国内で英語を勉強していたそうですね。

松野氏:はい。中学時代にオンライン英会話で習得しました。高校生になってからはさまざまな国際会議などに参加して、外で英語を話すようになりました。留学はしなかったものの、そういったイベント参加が目的で、短期で海外に滞在することがあり、アカデミックな英語を使う経験を重ねました。

冨田氏:大学受験ではアメリカの複数の大学と、国内ではSFCだけを受けたそうですね。

松野氏:日本の一般入試だと、評価軸が学力に偏っていて、点数を何点取るかだけで評価されてしまう気がしたんです。自分の中学・高校時代を振り返って、自分なりにいろいろな経験を積んできたのにそれを見てもらえないのはある意味悔しく、不合理に感じたんです。学力に加えて、いろいろな活動の成果など、1人の人間として評価してもらえる方が私に向いていると思いました。また、そういったセレクションを行っている大学の方が、さまざまな活動をしている刺激的な人たちと学ぶことができるのではないかとも思いました。

冨田氏:まさにそういった人を集めたいと思って、30年前の1990年、SFCでAO入試を始めたんですよ。日本の教育は小学校までは良いと思うんですが、問題は中3以降。受験に必要な勉強がマニアックすぎて「これは本当に社会で役に立つのか」と一同疑問に思うんです。学校の先生が生徒に教えるためにしか使わないような、ピントが外れた問題を、みんな躍起になって解いているんですよ。

 そうせざるを得ない理由は、結局のところ、進級や入学に際して、たった1回のテストで合否を決定し、順位をつけなければいけないから。定員数を選出するために、手っ取り早く差をつける必要があるんです。簡単な問題だと差が付きにくいため、必ず1~2題マニアックな問題を出すんですが、高校生はそのマニアックな問題を確実にとれるように勉強する。そうすると出題者側がもっとマニアックな問題を出すという非生産的なスパイラルに陥ってしまうのです。そんな時間があるんだったら、若いときにいろいろなチャレンジをしたり、自分の好きなことを徹底的にやってみる方が良いでしょう。

「自分の夢中になれるテーマについてオンデマンドで学ことは楽しい」と話す冨田先生

 そこで当時の慶應義塾大学は「大学入試を変えるのが一番良い」という結論にたどり着いたんです。SFCのAO入試では、これまでの活動のポートフォリオで受験することができるんです。AO入試はアメリカの入試を参考にしたもので、1発テストは行わず、高校時代の活動や資格、入学後の研究計画や大学卒業後のキャリアプランなど、書類と面接で総合的に評価するもの。それをやらないで、1発テストの点だけで入学者を決めるのは大学の手抜きだと感じてしまいますね。

 SFCのAO入試は当初だいぶ批判されましたが、その後4年後には3つの大学がAOを始め、今や全国700大学がAO入試を導入しています。しかしまだ理解が進まず、進学校ではAO入試を推奨しない、それどころか蔑んでみている学校もあるようです。松野さんの高校はいかがでしたか。

松野氏:私の高校も、あまり積極的な雰囲気ではなかったです。AO入試は一般入試より3か月ほど早く実施されるため、それに照準を合わせていると一般入試対策に影響が出てしまうというのが1つの理由です。もう1つは、AO入試に合格するためには課外活動など、積極的に経験を積まなければいけない一方で、時間を割いてそれをやっても受かる確証がなく、それよりは勉強して確実にこの点数を取る方が良いという考え方です。この考え方は生徒だけでなく、先生方の間にもはびこっているように感じます。

自分ならではの活動を切り開く子が日本を支える



冨田氏:やはりそうですか。一般入試が目指す「5教科7科目がすべてそこそこできる人材」の育成も否定はしませんが、日本にはそういう人ばかりが溢れている気がしています。自分ならではの活動を切り開いている子は、まさにこれからの日本を支える可能性があるのに、周りの大人が「得意を伸ばすよりも苦手を克服しろ」と強制して、みんなで足を引っ張って凡人にしてしまっているなと。

 SFCでは「エキサイティングで面白いことをやろう」をキーワードに、三振しても良いからホームランを狙える人材を育てようと。大谷翔平選手もたくさん三振していますけど、あのフルスイングはものすごくかっこいいですよね。

 多くの大学でよく見る光景ですが、最初の1~2年の必修科目は落とすと大変なので試験前に詰め込み学習をして、テストが終わったら全部忘れるというのを繰り返す。そうすると、3~4年で自分で選んで入った研究室で「研究って楽しいかも!」と、せっかく学ぶ意欲が湧いてきても、残念ながら1~2年に学んだ基礎を全部忘れているので、勉強し直さなければならず後悔する。でもそれ以降の勉強は、自分はこのプロジェクトを完遂したい、このテーマで研究したいという思いがモチベーションになるので、俄然取り組み方も変わってきます。自分のゴールに向けて、いろんな答えを探しながら取り組む「攻略本」のようなイメージです。そうなると勉強は楽しい。そうやって勉強したことは一生ものです。大学3~4年と言わず、もっと早くから攻略本的に学ぶべきだと思うんです。

 自分が情熱をもって解決したい問題に対して、基礎的な勉強も、専門的な勉強もしなきゃいけない。オンデマンドで勉強して、目的を達成する。そしてまた関心が広がり、次のテーマに注力するというように、やりたいことのために必要に応じて勉強するのがこれからの勉強の仕方だと思います。松野さんは、中学・高校の6年間、幅広い活動をされていますね。何か目標があったんですか。

本当にやりたいことのための勉強は楽しい



松野氏:最初はそんなに深いことは考えず、中学校で英語部に入り、そこで初めてディベートを経験しました。ディベートでは社会問題がトピックになるので、リサーチをして自分の考えをまとめていくうちに、そういう社会問題に向き合うのが楽しくて、他の人の意見もどんどん聞いてみたくなったんです。

 自分がいた環境だとみな似た意見をもっていて、議論が広がらなかったので、まったく違う意見をもっている人を求めて、北京で行われた国際学生サミット「MG20」に参加しました。それを機に課題意識がどんどん生まれ、インプットしては考え、アウトプットを継続しました。今は政策分野の課題などについて考えています。早い段階から外の世界に視野を広げられたことは幸運だなと感じます。

 早いうちに自分から能動的に社会をみれらる機会があると良いですね。そこから自分なりに課題を考えて、問題意識をもちながら勉強すれば良いと思います。そういったスタンスで学んでいる学生を受容する入試スタイルとして、AO入試がもっと浸透すれば良いですね。

「自分の経験全体で勝負できる入試が求められている」と話す松野さん

冨田氏:本当にそうですね。日本には本気でいろんなことをやってきた学生はまだ少ないので、大きなチャンスだと思うし、それが本来の人生の生き方だと思います。自分が心から熱中できることに出会うのは難しいことだと思いますが、もしそれを見つけたら諦めないでほしい。熱中できるものを見つけた子を、みんなで応援してあげる世の中になるべきです。

 私自身、中1の自由研究で「ポーカーで勝つ確率」について取り組んで、1人で5,000回ポーカーをしたことがあります。心折れそうになった場面もありましたが、知りたいテーマだったのでやってみたんです。すると、数学の先生が非常に面白がってくれたんです。どんなマニアックなことでも、とことんやれば評価して、感動してくれる人がいるんだと自信になりました。研究者人生に踏み込んだ、1つのきっかけです。

入試をきっかけに、自分らしい人生を考える



松野氏:SFCのAO入試には開始当時から続く強い信念があって、今もそれにもとづいて選抜していますよね。一方で、流行だからという理由でAO入試を導入している大学もある気がしています。明確な採点基準がないからこそ、学生にも「勉強が嫌いだからAOを受ける」といった消極的なAO受験や、「このくらい課外活動をしておけばAO受かるだろう」といったAOを軽視する人がいます。本来のAO入試のあり方が浸透していないと思うんです。

冨田氏:松野さんの指摘からも「テストで点数を取れてこそ」という世間一般の考え方が伝わってきます。勉強が嫌いでも、点数が取れなくても良いんです。AO入試の採点基準は明示されないことがほとんどですが、それでも大学ごと基準はあるはずです。課外活動のボリュームが1つの基準になっていると仮定しても、合格ラインを目指して準備をすることは特段悪いことには思えません。ましてや学校外の活動にわざわざ労力と時間を割いて取り組むわけですから。

松野氏:例えば高校3年間目的もなく遊んでいて、いざ大学入試に直面したときに、ちょっとボランティアでもやって適当に書類書いて、AO受かったらラッキーという、信念なきAO受験生もいると思うんです。大学に受かることを目標としていて、AO入試はこういう人が受かっているから、それをそのまま真似してやろうとか。それは本来のAO入試の理念とは反するのではないかと。

冨田氏:なるほど。まさに今世間的にも言われている「なんちゃってAO受験」、大した実績もないけどAOを受けることですね。

 他大学はわかりませんが、SFCの場合は30分面接すれば「なんちゃって」は絶対にバレます。3人の教員で30分面接をして、何も考えてない人はすぐわかります。書類は誰でも書けるので、大人が代筆することも想定内。でも大人が書くような優等生的な研究計画はほぼ評価されません。実績欄に客観的な面白い実績があれば別ですけど。そこにいかにパーソナルなことが書いてあるかが重要です。

 私も、AO入試で合格したことを後ろめたく感じている学生の話をよく聞きます。皆が受験勉強をしている中、スルッとAO入試で合格してしまった自分。テスト・点数至上主義の世の中では、そう感じてしまう人もいるのでしょう。でも一般入試で必死に勉強して受かるかどうかというような大学にAOで合格する人は、それはやっぱり評価されるべき実績があったからこそですし、すごいことだと思いますよ。「AOで受かるのはずるい」と言う人がいるのであれば「それなら自分も課外活動やボランティア、自分なりの活動をすれば良い」と言い返して良いと思います。

 私がすごく良いと思うのは、AO入試対策を始めている予備校が増えてきていること。AO入試対策はすごく難しいんです。「自分は何が得意なのか」「自分は将来何をやりたいか」から考え始めなければいけない。AO入試では入学後の学校生活に加え、卒業後に何をするかも聞かれます。つまり「自分はどういう人生を歩みたいのか」「自分らしい人生とは何か」が問われ、高校3年生にして人生をしっかり考える機会になるんです。AO対策を通じて、自らの人生としっかり向き合う。それはすごく良いことだと思います。

これからの大学入試について語らう冨田先生と松野さん

社会に貢献し価値を付けられる人間になる



松野氏:まさにアメリカの大学受験で感じたことです。提出するエッセイには、表面的なことを書いてもまず受からないので、自分の過去を振り返って、深く深く掘り下げて、気付きや見出した課題などをストーリーベースで書くんです。あの作業を高校生の時に経験するのとしないのでは、おそらく日本も海外も関係なく大学4年間の過ごし方が大きく変わるのではないかと思います。

 日本国内の大学に一般入試を経て進学した同級生に、大学で何をしているかを聞いたら「とりあえず授業を受けてバイトしている」って言ってたんです。入学前に、自分の興味や関心にしっかりと合う時間があれば、アクションの幅が広がるのはもちろん、目的意識をもちながら大学生活を過ごせるのではないかともったいなく感じましたね。

冨田氏:その通りだと思います。先にも話題にあがったように、今の日本では「文科省が示したメニューに沿って勉強して、確実にこの点数を取るのが効率が良い」ことになっているので、皆生真面目にそれをやっています。毎日メニューをこなすことで忙しいから、将来どうしたいとか、自分が何をしたいとか、考える暇も必要も機会もない。それで大学に入って、合コン・バイト・サークルの日々を過ごして、あっという間に就活生。自分が何をやりたいのかわからないから、人気企業ランキングを上から見て、企業に何となく滑り込む人があまりにも多い。入社後にたくさんの人が違和感をもってます。

 慶應義塾大学創設者の福沢諭吉は「精神の成長とは、私益から公益に変わることだ」と説いています。私益よりも、社会のため、次の世代のため、他者のために貢献するほうが、自分自身の成長につながるということです。人は社会性生物だから、人の役に立ちたいという本能を多かれ少なかれもっているんです。自分ならではの価値を、人生にいかに付けられるか、どうやったら価値を最大化できるか。高校生がそのレベルまで考えさせるのは難しいかもしれませんが、頭の片隅に入れておくと良いですね。

AO入試を経た大人が20年後の教育を変える



冨田氏:大学卒業後のことは考えているのですか。

松野氏:そうですね、大学院に行くかどうか検討すると思います。アメリカの大学へ進学しますが、ヨーロッパなど違う世界を見ても良いなと。そして、いずれは政策づくりに関わりたいと思っています。どの立場からどう関わるのが良いのか、今考えているところです。

冨田氏:いろんな国に行くのはすごく良いことですよね。極東の小さな島国の中だけでしか通用しない「偏差値」のために必死に競争することが、どれだけ空しいことなのかを実感できる。それに、学校を卒業しても一生学びは続きます。日本人にありがちな、学校で学んで、学校を出たら仕事をするというやり方は大きな間違いです。本来、学校は学び方を学ぶところだと思います。自然にも社会にも、分からないことがいっぱいあって、自分が心から疑問に思っていることを知るために「攻略本」的に勉強するのは、とても楽しい。勉強はそうやってするべきだと思うし、それを1人でも多くの子供に伝えたいし、これからの日本はそういう人が求められていると思います。

 そうした夢中になる勉強のやり方が浸透せず、点取り一辺倒が評価されがちなのは、今の日本の大きな問題ですが、これから変わっていくと思います。というのも、SFCが日本で初めてAO入試をやったのは1990年で、その1期生が今50歳になります。つまり今の50代以上はAO入試を誰も経験していないんです。多くの校長先生も、塾の管理職の先生も、受験生の親も、おそらく一般入試で勝負してきた人たちばかりで、自分が経験してこなかったAO入試は得体の知れないものなんです。

 一方で、今30歳くらいの人たちは、約半数が推薦またはAO入試で進学していると思われます。あと20年たって、彼らが先生や親、自治体や国を率いる立場になったら教育界が変わると思います。今以上に偏差値偏重教育を疑問視する人も増えるでしょうし、AO入試の良さや、夢中になる勉強の素晴らしさが広くシェアされる世の中になると思うんです。

松野氏:皆が楽しみながら夢中で学んで、自分の学びのポートフォリオで勝負する世の中、素敵ですね。これからの日本の教育が楽しみです。

冨田勝(とみたまさる)
慶應義塾大学環境情報学部教授。慶応義塾大学工学部数理工学科卒、米カーネギーメロン大学コンピューター科学科博士課程修了。工学博士、医学博士、政策・メディア博士。専門分野は生命科学、情報科学、システム生物学、バイオインフォマティクス、地域政策、地方創生。湘南藤沢キャンパス(SFC)開設とともに米国から帰国し、日本初のAO入試の創設に参画。

松野知紀(まつのともき)
米・ハーバード大学一年生。国際政治学学生協会(IAPSS)アジア地域調整官。茨城県立日立第一高等学校在学中からG20公式附属会議である「Y20サミット」をはじめとしたさまざまな国際会議などに積極的に参加し、長期の海外経験なしに米ハーバード大学に現役合格。大学での専攻は政治学を予定。

AO入試(現・総合型選抜)とは


 詳細な書類審査と時間をかけた丁寧な面接等を組み合わせることによって、入学志願者の能力・適性や学習に対する意欲、目的意識等を総合的に評価・判定する入試方法(文部科学省による定義より)。受験生本人が記載する活動報告書、大学入学希望理由書、学修計画書等を活用して受験生の能力・意欲・適性等を多面的・総合的に評価・判定する。日本では1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が初めて採用した。
《羽田美里》

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