【中学受験2017】日能研に聞く、多様性のある私学の魅力と最新動向

 日能研本部常務取締役・茂呂真理子氏、中学受験「進学レーダー」編集長の井上修氏、子ども未来進学センター センター長の村上健氏の3名に、私学を中心とした2017年の首都圏における中学入試の動向を聞いた。

教育・受験 小学生
日能研本部 常務取締役の茂呂真理子氏
  • 日能研本部 常務取締役の茂呂真理子氏
  • 中学受験「進学レーダー」編集長の井上修氏
  • 日能研本部 子ども未来進学センター センター長の村上健氏
 日能研では、それぞれの私学には多様さがあり、そこに大きな価値があると考えている。学校が人を育てる場であるということを念頭におきつつ、個々の受験生と学校の価値観が合うかどうかという点を重視し、指導を行っているという。日能研本部常務取締役の茂呂真理子氏、中学受験「進学レーダー」編集長の井上修氏、子ども未来進学センター センター長の村上健氏の3名に、私学を中心とした2017年の首都圏における中学入試の動向を聞いた。

--2017年の首都圏における、受験者数、難関校(別コース設置校)の志願者数に変化はありますか。

 日能研の公開模試の数字を見る限り、2017年は全体では昨年と同等か、もしくは少し増える可能性もあります。

 首都圏では、男子校では麻布の志願者が直近の11月の日能研模試で、前年比で17%程度増えています。また、同時に志願者を集めているのが武蔵です。両校ともにもともと素晴らしい学校で、学校自体は以前から何も変わっていないのですが、それにもかかわらずこれらの学校に志願者が集まっているのは、校長先生をはじめとした先生方の発信力が高まり、保護者にとって学校の魅力が伝わりやすくなったからだと考えています。

 女子校では、鴎友学園女子、吉祥女子、洗足学園の勢いがよく、桜蔭、女子学院に近づいてきていることが特徴です。付随して豊島岡女子学園、鴎友学園女子、吉祥女子、洗足学園が拮抗しています。たとえば、鴎友学園女子は2016年から2月1日の受験生の定員を増やしたことにより、同校を熱望するチャレンジ層の受験者が増加しました。学校側としても、このチャレンジ層の受験生を積極的に受け入れ、6年間かけてしっかりと育て、伸ばしていこうという意志を明確に出しています。これらの学校に共通するのは、「皆で励まし合い、高め合って頑張ろう」という校風に保護者の注目が集まっているということです。

 また、富士見、田園調布学園、山脇学園も志願者が増えているようです。アクティブラーニングや、それぞれの生徒が最適に学べる環境、プログラムが用意されるなど、入学後の満足度が高いという点で志願者を集めています。共学校では広尾学園、三田国際学園、開智日本橋、安田学園などの志願者が増加しています。

 志願者動向を見ると、大学合格実績や先取り学習という外側から見える評価軸だけではなく、その学校がどういう教育理念で教育をしているのか、子どもたちをどのように育てたいのか、学校の醸し出す空気感や、授業以外の部分も含む学校全体でいかに人間教育を充実したものにするかという「バランスのよさ」で選ばれている傾向があります。

◆午後入試実施校の志願者が増加

--入試に大きな変更点や傾向があれば教えてください。

 一つの特徴としては、教科横断的な思考力入試や適性検査型入試の増加です。そもそも、麻布や武蔵、桜蔭などの入学試験問題は従来から記述力や思考力を問うものですが、国語、算数、理科、社会という入試の教科の枠を取り払ったものが思考力入試です。

 昨年あたりからは、各教科の中に、その教科を入り口としながら他教科の内容やアプローチ方法を使って問題に向かうという形態で思考力を問う問題も増えています。また、複数回入試を行う学校では、その中で1回を思考力型にするところもあります。

 従来の4教科、または2教科型の入試に加え英語選択入試(国語・算数・英語)、新3科型入試(読解・論述、算数、英語または理科)といった選択型の入試に見られるように、日本の中でもインターナショナルスクールで学んできたようなグローバルなバックグラウンドを持つ子ども、あるいは思考力や発信力をしっかりと持っている子どもにも目を向けた、入試そのものの「多様化」が進んでいます。

 また、午後入試が完全に定着しており、今年の顕著な傾向としては、2月1日、2日ともに午後入試の志願者が増えています。これは、受験を1日、2日に前倒しする傾向になりつつあることを意味し、女子でその傾向が強いです。以下が、おもな午後入試の実施校となります。

【男子】おもな午後入試実施校
1日:鎌倉学園、東京都市大附属、広尾学園、国学院久我山ST、東京農業大学第一、東京都市大学等々力(S特選)、など
2日:高輪(算数)、広尾学園(医進)、中央大学附属横浜、桐蔭学園(中等・男子部)、東京都市大学等々力(S特選)、東京農業大学第一など

【女子】おもな午後入試実施校
1日:広尾学園、国学院久我山ST、東京農業大学第一、東京都市大学等々力(S特選)大妻中野、恵泉女学園、東京女学館、大妻多摩、淑徳(東大1)、カリタス、清泉女学院など
2日:広尾学園(医進)、普連土学園、中央大学附属横浜、東京都市大学等々力(S特選)、東京女学館、東京農業大学第一、桐蔭学園(理・普)、青山横浜英和、カリタスなど

◆1月入試が定着

 また、1月入試も定着しています。千葉、埼玉の方にとっては大本命の時期ですが、東京、神奈川の受験生にとっても、2月1日からの入試を万全で迎えるために不可欠な機会であると捉えられています。合格、不合格を体験しそこから結果をつくった自分をふり返ることで、2月に生かしていく貴重な体験と捉えています。これにより学校選びも広域化し、選択肢が増えてきており、1月に複数校受験するケースも多くなっています。

--公立中高一貫校の動向はいかがでしょうか。

 日能研では私学に進学することに価値があると考え、とても大事にしています。一方で、公立中高一貫をきっかけに、中学受験を考えるという傾向がないわけではありません。いずれにしても、日能研では、公立中高一貫を検討したとしても、私学と併願し受験をする子がほとんどです。

 そのうえで動向だけを述べれば、横浜市立サイエンスフロンティア高校附属の開校については、男子は神奈川では浅野の受験日と重なり志願者は集まっていません。進路が理系に限定されるため、女子の志願者も多くは集まらないと見ています。

◆中学受験の究極の目的は「子どもの幸せ」

--冬休みから入試当日までのアドバイスを、保護者と受験生それぞれにお願いします。

【保護者の皆さんへ】
 あと1点を作っていく、ということは、お通いの塾に任せておいていいと思います。保護者の方には、子どもがなぜその学校に行きたいと思うのか、今一度、入試本番を迎える前に一緒に再確認してください。その「思い」を受験当日、答案や面接を通じて、受験する学校の先生へのメッセージとして表現することになるからです。

 中学受験は高校入試とは異なり、積極的な選択です。少し大げさかも知れませんが、中学受験の究極の目的は、子どもの幸せのためと言えるでしょう。大事なのは、結果によって自分の価値を変えないということです。中学受験を通じて家族が価値観を共有するといった、プロセスそのものに意味があると思います。

 日能研では「毎日が第一志望」という話をしています。入試日があるだけ私学に進学するチャンスがあります。だから、毎回が第一志望。子どもが自分で合格を創り、自らが開けたドアが幸せの形であるという軸がぶれないよう、心がけください。

【受験生の皆さんへ】
 大晦日やお正月は塾がお休みのところが多いと思いますが、お休み中であっても、決まった時間に寝て、決まった時間に起きるという習慣を崩さないでください。そして午前中だけでも、過去問に取り組むなどしてください。受験直前までいつもどおり、学校に通い、塾に通い、日常のペースを崩さず規則正しい生活を送ってください。

 受験に向かって一緒にやってきた仲間はライバルではなく、同じ学校を目指し、磨き合った大切な存在です。仲間の力を自分の力に変え、仲間とともに頑張っていきましょう。

--ありがとうございました。
《加藤紀子》

加藤紀子

京都市出まれ。東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、海外大学進学、経済産業省『未来の教室』など、教育分野を中心に様々なメディアで取材・執筆。初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は17万部のベストセラーに。現在はリセマムで編集長を務める。

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