デジタル人材の需要が高まる中、大学でデータサイエンスを扱う学部・学科の新設が相次いでいる。2023年度は一橋大学、2024年度は千葉大学、2025年度は関西大学などが創設。この記事では2023年度以降にデータサイエンス系の学部・学科等を新設した10大学を選定し紹介する。
一橋大学「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科」
2023年度に創設された「ソーシャル・データサイエンス学部・研究科」は、社会科学とデータサイエンスを融合した学部および研究科となる。学士課程では、ソーシャル・データサイエンス科目のほか、データサイエンス科目(統計学、情報・AI、プログラミング)と、社会科学科目(経営学・経済学、法学・政治学・その他社会科学系)を履修。3年次からは、連携企業から提供された実データを用いたPBL演習を通じて、実践的な知識・スキルを修得し、ビジネス領域、社会課題領域、データサイエンスの3領域を体系的に学ぶ。2024年度一般選抜の同学部の志願者数は前期が募集定員30名に対し、志願者113名で志願倍率3.8倍、後期は募集定員25名に対し538名が志願し、志願倍率は21.5倍となった。2025年度一般選抜募集要項は10月下旬ごろ公表予定。
名古屋市立大学「データサイエンス学部」
2023年度に創設された「データサイエンス学部」は、東海地域の国公立大学で唯一のデータサイエンス学部。文理の枠を超えて、8つの学部・7つの研究科、5つの医学部附属病院と学内・学外問わず連携。カリキュラムは社会課題の解決にアプローチできる設計で、IT系、ビジネス系、医療系の3つの履修モデルを設定。2年次からの課題解決型学習(PBL演習)や卒業研究は、学内・学外の協力を得ながら実施し、総合大学ならではの強みを生かした研究や教育に取り組んでいる。現在、名古屋市政からの公共政策につながる研究の要請に加え、企業からはプロジェクトへの取組依頼が相次いでおり、卒業生の人材採用においても大きな期待が寄せられているという。2024年度の一般選抜(前期)は、募集定員50名に対し133名が志願し、志願倍率は2.7倍。2025年度一般選抜募集要項は10月中旬ごろ公表予定。
順天堂大学「健康データサイエンス学部」
2023年度に創設された「健康データサイエンス学部」は、健康総合大学・大学院大学である同大だからこそ提供できる医学・医療とスポーツに基づいた「健康」の視点から、健康・医療・スポーツ領域の発展に貢献するスペシャリストとして「健康データサイエンティスト」育成を掲げる。1・2年次には、数理統計やコンピュータサイエンスなどデータ分析と健康・医療・スポーツ領域の基礎知識。3・4年次には、同大の附属病院や連携企業でのインターンシップを実施し、実践的な応用スキルを身に付ける。教壇には、コンピュータサイエンスや統計学、スポーツ・医学など、世界から各分野のプロフェッショナルを招き、分野や国境を越えたボーダーレスな学びを実現する。同学部の入学定員は100名。2025年度の募集人員は、総合型選抜(育成型)7名、総合型選抜I期18名・II期5名・III期若干名、学校推薦型選抜8名、一般選抜A日程3教科均等17名・数学重視17名、一般選抜B日程7名、共通テスト利用選抜3科目5名・4科目3名など。
北里大学「データサイエンス学科」
2023年度に創設された「未来工学部データサイエンス学科」は、データを使い、幅広い分野で新しい価値を創造するデータサイエンティストの育成を目的とした学科。2024年4月から運用がスタートした未来工学部棟(相模原キャンパス内)には、ビッグデータを解析するうえで欠かすことができない「学部独自のサーバー」をはじめ、研究室・講義室・演習室・セミナールーム・自習室・ラウンジなど、PCやネットワークなどのIT環境を整備。細胞を生きたまま観察できる「共焦点レーザ顕微鏡」や、ゲノム解析のための「次世代シークエンサー」など生物実験用の施設も設け、データを自らの手で取得可能にする体制を整えている。また、同大には、生命科学系の学部が集結しているため、医学、薬学、生物学など、研究現場で最前線のデータを解析できることも大きな魅力となる。2025年度の募集定員は120名。うち総合型選抜の募集定員は10名、9月30日まで出願を受け付け、10月20日に講義理解力試験および面接を実施する。学校推薦型(公募制)・一般選抜・大学入学共通テスト利用選抜の募集要項は、9月中公開を予定している。
千葉大学「情報・データサイエンス学部」
2024年度に創設された「情報・データサイエンス学部」は、「情報・データサイエンス学科」を設置。入学後3年次には、データサイエンスコースと情報工学コースの2コースのうち、希望するコースに配属される。両コース共に「医療・看護」「環境・園芸」「人間・感性」の3つのカテゴリーに対応する「データサイエンス系専門科目群」と、データサイエンスの基幹的技術に対応する「情報工学系専門科目群」などから構成される実践的カリキュラムを、横断的に履修する。なお、同学部を卒業するためには、「千葉大学グローバル人材育成“ENGINE”」の方針に基づき、在学中に1回以上の海外留学が必須となる。2025年度入試の募集人員は100名。学校推薦型選抜で30名(一般枠15名・女子枠15名)、一般選抜(前期)で70名を募集する。学校推薦型選抜の募集要項は、同学部のWebページに掲載しており、出願は10月28日~11月6日午後5時までインターネットで受け付ける。一般選抜の募集要項は10月下旬に公表予定。
東洋大学「フードデータサイエンス学科」
2024年度に食環境科学部に創設された「フードデータサイエンス学科」は、食の歴史・制度・法律・文化に関する専門知識とともに、多種多様なデジタルデータの分析・活用スキルを獲得できる学科。社会科学・人文科学を基盤に俯瞰的視点を、段階的学習でデータ分析の実践的スキルを修得し、食の問題を多面的に理解したうえで解決する能力を養う。さらに東洋大学ならではの海外研修や、キャンパス内留学「Toyo Achieve English」での少人数英会話講座に加え、国際人に必要な教養や高度な英語力を養う授業を展開。学内には、VRやARを活用したデータサイエンスや経済実験を実施できる設備を完備した「食料経済実験室」など、最新設備を有する実験室も整備している。2025年度入試は、全学部共通の大学入学共通テスト利用入試、一般入試のほか、食環境科学部「フードデータサイエンス学科」は、英語外部試験スコア・論文・小論文・面接・グループディスカッションなどで合否を判定する「多面的評価入試」が行われる。
宇都宮大学「データサイエンス経営学部」
2024年度に創設された「データサイエンス経営学部」では、課題解決や意思決定、価値創出を実践するために必要な「データサイエンス力・マネジメント力・社会実装力」の3つの力を身に付け、「分野複眼」の教育プログラムを実施。2年次前期までは、全学生共通でデータサイエンスと経営学の専門基礎、2年次後期からは「データサイエンス学系」または「経営学系」のどちらかを選択して専門性を磨く。3年次にはインターンシップやや演習科目を配置し、地域産業・地域経済の持続的発展に資する社会実装力を養成する。入学定員は55名。選抜では文系・理系志望者双方に配慮した試験が行われる。一般選抜(前期・後期)の共通テストでは、「地理歴史・公民2科目(200点)、理科1科目(100点)」または「地理歴史・公民1科目(100点)、理科2科目(200点)」のどちらでも受験可能。一般選抜(前期)の個別学力検査では数学および英語が課されるが、英語重視の「文系型」または数学重視の「理系型」のどちらかを出願時に選択する方式となっている。
高知工科大学「データ&イノベーション学群」
2024年度に創設された「データ&イノベーション学群」は、AI・データサイエンスの応用力育成に加え、民間企業などの連携プロジェクトに参画する「実践型プロジェクト学修」により、文理統合力に磨きをかける学びを重視した学部。学部内には時代のニーズに応える「AI・データサイエンス専攻」「デジタルイノベーション専攻」の2つの専攻を設置している。データ&イノベーション学群の強みとしては、「実務家教員」など外部講師も含めた多彩な教員陣とともに、プロジェクト学修の専用スペースや、音と映像のデジタル体験の提供を予定している新学舎での恵まれた学習環境をあげている。新学舎は永国寺キャンパス内に現在建設中で、講義から討議、実装までを1フロアでシームレスに作業転換できるようなエリア設計を行っているという。2025年度の同学群の募集定員は60名。学校推薦型選抜では女子枠を設け、若干名を募集する。一般選抜(前期)の出願期間は2025年1月27日~2月5日、個別学力検査等は2月25日、合格発表は3月6日。
関西大学「ビジネスデータサイエンス学部」
2025年度に創設する「ビジネスデータサイエンス学部ビジネスデータサイエンス学科」は、ビジネスにおいて、データサイエンスとイノベーションを結びつけ、新しい価値を創造する人材の育成を目指す学科(文部科学省8月28日認可)。実践志向のデータサイエンス教育を展開し、「ビジネス系科目」「アクティブラーニング系科目」「データサイエンス系科目」の3つの特徴あるカリキュラムを編成。実データを用いたビジネス現場における課題解決のほか、ビジネス現場における実践的な外国語運用能力を身に付ける外国語科目も配置する。入試は一般選抜や総合型選抜などを予定。一般入試では、高校で学ぶ基礎学力を重視し、「英語」「国語」「地歴、公民または数学」の3教科型入試や、「英語」「数学」の2教科型入試を予定している。定員は350名。
新潟県立大学「データサイエンス経済コース」
2025年度に国際経済学部に3つ目のコースとして創設する「データサイエンス経済コース」は、「コンピュータサイエンス科目群」「データアナリシス科目群」「データサイエンス応用科目群」の専門教育を体系的に実施し、特に応用実践力を養うデータサイエンス応用分野に重点を置く。3年次からの応用実践科目にはPBL手法を導入し、学生・企業・教員の3者協働参画による学びを通し、実践的課題解決力・チームワーク力を育成する。コース新設にともない国際経済学部の入学定員は10名増の100名へと拡大する。新潟県立大学は、公立大学だが一般選抜試験においては、ほかの国公立大学が実施している分離・分割方式による入学者選抜には参加せず、個別学力試験を独自の日程で実施。そのため、同大で3回、ほかの国公立大学で3回と併願が可能となり、国公立大学の受験機会が広がる。
「データサイエンス」とは?
データサイエンスとは、データを科学的に分析し、問題の原因を探り、有用な結論や正確性の高い予測を行う学問のこと。分析には、数学や統計学、プログラミングなどが用いられ、近年ではAIの活用も増加。ビジネス上での意志決定の用途だけでなく、スポーツや医療、教育、行政など幅広い分野で、その重要性が高まっている。
文部科学省では、デジタル時代の「読み・書き・そろばん」である「数理・データサイエンス・AI」に関する大学等の正規課程の教育プログラムのうち、先導的で独自の工夫・特色を有するものを認定し、大学等の取組みを後押ししている。今回紹介した10大学は、すべて「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の認定校。中でも関西大学と宇都宮大学、千葉大学は、初級のリテラシーレベルだけでなく、応用基礎レベルも認定。さらに千葉大学は、リテラシー・応用基礎の各レベルで、特に優れているカリキュラムとしてプラス選定されている。